第43話:レオスの全快、フィンの好奇心
〜前回までのあらすじ〜
記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅に出る。
ウェイシェムが死の街と化し、命からがら脱出。
放浪中、キャラバンのメンバーとして向かい入れられ、苦手だった人と交流をすること学びながらノクティアへと向かう―
キャラバンはゆっくりと砂漠の道を進んでいた。
カルネリアの街を離れてから四日目。暑い日差しが容赦なく照りつける中、荷車の車輪が砂を掻き分けて進む。
道の両脇には乾いた砂とまばらな岩が続き、風が巻き上げた砂埃が時折視界を遮る。隊列の中では、エレカの手厚い治療で完治したレオスの姿があった。
「ずいぶんよくなったようだな、レオス」
マルバスは軽く肩をすくめ、にやりと笑みを浮かべながら声をかける。
その瞳には、ほんの少しだけ安心感と期待が混じっていた。
「おかげさまで、もう全快です!」
レオスは胸を張りながら応え、ウェイシェムでの激闘を思い返す。
目元が少し和らぎ、唇の端がほんのり上がった。
(あの時の自分の弱さ……今はもう逃げられない。もっと強くなるしかないんだ)
意識を新たにした決意が彼の動きにも表れていた。
「マルバスさん、アンタ、強いだろ? 俺に稽古つけてくれねぇか?」
レオスは真っ直ぐにマルバスの目を見据え、拳を軽く握る。
熱意が込められたその声に、マルバスは一瞬だけ目を細めた。
「見てわからねぇか?」
マルバスは腕組みを崩さず、少し息を吐く。
「キャラバンの管理に大忙しだ。こう見えて寝る時間も削ってんだぜ」
肩を竦め、斧を担いだ手を軽く振る。
「それに、俺は必要以上に斧は振らねぇよ」
「……ああ、そうか。悪かったな」
レオスは少し肩を落とし、苦笑いを浮かべる。
「じゃあ、ちょっと他のやつを探してみるわ」
二人の間に短い沈黙が流れた後、マルバスは軽く肩を叩き、からかうように笑みを深める。
⸻
朝早くから動き出したフィンは、ネロやアテネと軽く挨拶を交わしていた。
みんなの起床パターンも少しずつ見えてきて、興味深い日常の一面が顔を覗かせる。
早寝早起き組のフィン、ネロ、エレカ、アテネは太陽が昇ると共に活動を始める。
一方、フィンも最近気付いたのだが、ロアスはウェイシェムのような命に関わる状況下でない限り、寝るのも早いが起きるのは遅い。平均10時間〜12時間もの睡眠時間を確保している。
それに対し、マルバスやダラスは夜遅くまで作業をしているのに、朝は早起き。
レオスは療養中だったからなのか、遅寝遅起きの不規則な生活だ。
「ロアスさんって、ほんとによく寝ますよね」
フィンが小声でつぶやく。
「そうね。ああ見えて実は成長期……なんてことあるのかしらね?」
エレカがからかうように笑うと、フィンがすかさず、
「でも、健康にはいいことですよ。ちゃんと休むのは大事ですし」と庇う。
「ちょっと、様子見てきますね?」とフィンは立ち上がり、エレカに手を振られながらロアスの元へ向かった。
その頃、ロアスはまだテントの中でぐっすりと眠っていた。
フィンはそっとテントの入り口から覗き込み、静かに息をのんだ。
「こんなにぐっすり……」
しばらく眺めた後、フィンの視線はロアスの切れ長の目や高い鼻筋、整った顔立ちに引き寄せられる。
(なぜだか、彼から目が離せない。よく見ると……これが世間で言うイケメンってやつ……かな?)
頬をそっと撫でてみたい衝動に駆られる。
次に目が向いたのは、頭から伸びている大きな角だった。
(これ、どんな質感なんだろう……角くらいなら、触ってもいいかな?)
心臓がドキドキと高鳴るその時、背後から軽快な声が響いた。
「おい、そいつまだ寝てんのかよ?」
振り返ると、レオスが腕を組み、すぐ後ろに立っていた。
「ひゃっ!? な、なんでそんなところにいるんですか!?」
びっくりしたフィンは慌てて身を翻し、顔を真っ赤にして怒り気味に言った。
「いや、いたっていいだろ。身体もだいぶ良くなったしな。そろそろ修行をつけてもらおうとお願いしに来たところだ」
「へ、へぇ、そうなんですね……」
話題が変わりそうでホッとしたのもつかの間、
「でさ、フィン、お前なにロアスの顔ぼーっと見つめてんだよ」
と、急に視線が刺さる。
途端に視線が泳ぎ、明らかに戸惑いの表情で早口になるフィン。
「べ、別に! ただ……あの、その……ちょっと覗いただけで! この角は何なんでしょう? どんな材質かなー? って、科学的観点から気になって!」
レオスは首をかしげ、感心したように言った。
「ふーん。お前、科学に興味あったのか?」
言葉に詰まりつつもフィンは答える。
「そ、そうなんですよ! 本当はこの角を削って材質を調査してみたい……なんて。そ、そんなことより、そろそろ調理班の手伝いをしないと!」
フィンはいそいそとテントを出ようとする。
「フィン!」
レオスはフィンを呼び止めた。
振り返ると、レオスが薄ら笑いを浮かべていた。
「神子様といえど、思春期だもんな。わかるぜ。にしても、嘘下手すぎ」
「――――っ!!」
フィンは耳の先まで真っ赤になり、
「レオスさん!私は――」
「あー、はいはい、科学的観点で見つめてたんだろ? だよな?」
気持ち悪い笑みを浮かべて言葉を被せるレオスに、
「知りません! 酷いです!」
ぷんぷんと頬を膨らませながら部屋を出るフィン。
「はは……あー、ガキ相手にからかいすぎたか」
レオスは少し反省しながらつぶやいた。
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