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最強にして記憶喪失。だが神子様は蛮行を許さない!  作者: 死神丸 鍾兵
第三章 〜救いの旅団〜「キャラバン編」
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第42話:盗賊団vs騎士団

〜前回までのあらすじ〜

 記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅に出る。

 ウェイシェムが死の街と化し、命からがら脱出。

放浪中、キャラバンのメンバーとして向かい入れられ、苦手だった人との交流を学びながらノクティアへと向かう。

 一方、盗賊団ブラックペリルは、聖杯騎士団カリクスオルドに狙われていた――

 聖杯騎士団の包囲は、もはや狩りの形を成していた。

 先頭に躍り出たのは、聖銅騎士レディ。

 リカールがリリィに気を取られ、高度を落とした隙をつき、馬の上に立ち一気に跳躍した。

 両手に握られた双剣が、光の軌跡を幾十も描く。


「盗賊! 神と騎士団の誇りのため、この聖銅騎士レディ・タインが、貴様を成敗する!」


 ただ速いのではない――一本目で構えを弾き、二本目で刎ねる、まるで緻密な舞踏のような二刀術。

 リカールは短剣で辛うじていなしつつ、返す手を打つ暇もなく押し込まれていく。


「オ・ラ・ラ! 速いデスネ!」


 だが、レディの剣撃は休まない。

 上段から閃く光がリカールの視界を奪い、次の瞬間には下段から鋭い逆薙ぎが足を狙ってくる。


「天へと捧ぐ祈りの舞、輝きは刃となりて――

 踊れ、《神聖セレスティ剣舞アルバレル》!」


 多段の剣撃が繰り出される。空中で後退しながら二本の短剣でいなしていくリカールだが


キィン! 二本同時に弾き飛ばされる!


「ワアォ! 力も、強いデスネ!」


 瞬間、リカールは一気に後方に加速し、上下回転しながら後退する。

 その合間、背後から重い影が迫った。


「次は私が行くぞ、レディ!」


 そう言ったのは聖銅騎士ガイウスだ。

 レディはそのまま地上を走る馬に飛び戻る。

 馬上のガイウスから振りかぶられたのは、鉄球のついた巨大なモーニングスター。


「逃がさんぞ、盗賊!  虚妄を砕き、咎を断ち、

 我が鉄球と共に邪を滅せよ!―《聖鎖ハロウド粉砕クラッシュ》!」


 鎖が唸りを上げ、空気が破裂する音と共に地面へ叩きつけられる――衝撃波が地を裂き、破片がリカールの頬を掠めた。


「素晴らしいデスネ……!」


 ガイウスは攻撃の合間に白魔術を詠唱する。

 鉄球に聖光が走り、次の一撃では純白の爆ぜる光が飛沫のように弾け、リカールの視界を灼く。

 その一瞬、リカールへの進路を塞いだのは、他の騎士を相手にしていたはずのペラだった。

 だが、ガイウスはものともせず振り回したモーニングスターでペラを弾き飛ばした。ペラは地面に叩き落とされ人形らしく木片のように転がる。


 頭上から降下――リリィが鞭を構え、反撃を試みる。

 しかし、次の瞬間、戦場全体を覆うような白光が走った。


「退け、下郎ども」


 低く響く声。

 そこに立つのは、銀鎧をまとった巨躯――聖銀騎士ボリナーク。

 右手を高く掲げた瞬間、空が裂け、蒼白い稲妻が集束していく。

 耳をつんざく唸りと共に、それは一本の柱となり、リリィのグリフォンめがけて落ちた。


 ―― 《雷槌閃ライトニング・グラリア


 鼓膜を貫く轟音、直撃した光と衝撃波で、グリフォンが悲鳴を上げ、旋回の軌道から弾き飛ばされる。


「ッ! サイヤク!」


 リリィは必死に手綱を操り、なんとか不時着させる。力尽きたグリフォンは地面に横たわった。

 ペラもまた地面に落ちたまま、起き上がることはない。

 リカールは宙に浮いたまま、新たな二本の短剣を取り出す。


 ブラックペリルは劣勢に立ち、騎士団の包囲は、最終局面へと収束していた――かに見えた。


「……もう飽きたわ。この子もケガしちゃったし、さっさと終わらすよ〜」


 負傷したグリフォンの背を撫でながら、退屈そうに吐き捨てた。


 次の瞬間――。


「……え?」

 隣にいた騎士の胸を、別の騎士の剣が貫いていた。


「な、何をしているっ……!」

「し、知らねぇ! 勝手に――!」


 刹那、同士討ちの惨劇が爆ぜた。

 血煙が上がり、騎士達の叫びが断末魔へと変わる。

 互いを庇うはずの剣が肉を裂き、盾が味方の頭蓋を叩き砕く。

 秩序は瞬く間に崩壊し、聖騎士団は地獄の修羅場と化した。


「くっ……馬鹿ども! 目を覚ませ!」


 ガイウスが怒号を放つが、その手のモーニングスターすら裏切るかのように唸りを上げ、彼自身を襲う。

 咄嗟に頭を逸らすも、鉄塊は頬を掠め、片耳を吹き飛ばした。熱い血が頬を濡らす。


「くそっ! どういうことだ!? 隊長!」


――自分の右腕が勝手に動いている。何者かに操られるように。


「聞け! 白魔術を扱える者は、己が身に光を溜めよ!」


 ボリナークの声が戦場に響いた。


 ガイウスは言われるがまま、必死に体内へ魔力を沈め込む。

 その瞬間、ガイウスの暴走した腕が解放され、彼は歓喜に声を上げた。


「や、やった! 隊長の言うとおり――」


 言葉は終わらなかった。

 ガイウスの喉は刃で裂け、声帯ごと噴き上げた血に沈んでいた。


「ガイウスっ!」


 レディが叫び、駆け寄る。治癒の光を紡ごうと両手を掲げ――


 地面が裂けた。

 砂塵を吹き飛ばし、サンドウォームが顎を開く。


「っ……!」

 レディの双剣が閃き、第一の怪物を瞬時に刻み捨てる。

 しかし、次なる巨躯の影に気付くのが一瞬遅かった。


「――しまっ!」


 轟音と共に片足を呑まれる。

 必死に剣を振り上げた刹那――首筋に冷たい痛み。

 脳天に突き立つカードが煌めき、背後からリカールが囁く。


「フィナーレ……」


 レディの双剣は振り下ろされることなく、頸動脈が裂けた。

 血潮は薔薇の花弁のように咲き乱れ、レディは絶望をその顔に刻んだまま絶命する。

 その骸は直ちにサンドウォームに啜られ、肉片と化した。


 一瞬の惨劇であった。

 気付けば、ボリナークの眼前には血溜まりに沈む部下達の屍が転がっている。


「ど、どういうことだ……神よ……!」


 視界が揺れる。身体が痺れている。

 いつの間にか胸元に短剣が突き立てられていた。

 ボリナークはそこからどくどくと毒が回りはじめていることを感じていた。


 この状況下でもボリナークは諦めることなく、冷静に状況を俯瞰し、観察、分析、この最悪な状況を打破する最善の策を模索していた。


 ――戦場は、既に狂気と化していた。


 残る騎士たちの剣は、叫び声と裏腹に味方を襲う。

 「違う……止まれ、止まれ!」と声を上げながらも、震える手は勝手に剣を振り抜き、仲間の肩を裂く。

 傀儡にされたようなその光景は、阿鼻叫喚をさらに増幅させていった。


◇◇◇◇◇


――二年前


 重厚な扉を押し開けた瞬間、圧のある気配に思わず背筋が伸びた。

 部屋の中央に立つ男――髪を乱暴に撫で付けただけのオールバック。片目に刻まれた古傷は深く、眼光の鋭さと相まって獣じみた迫力を放っている。

 歴戦の猛者、聖金騎士ライセン。その前に膝を折り、ボリナークは言葉を発した。


「私をライセン様の聖銀騎士へと推薦していただき、ありがとうございます」


 無表情のまま、きっちりとした礼。

 だが心臓は荒々しく打ち、喉は渇ききっていた。


「ボリナークか」

 ライセンは低く笑みを浮かべ、傷の走る目を細めた。

「お前の日頃の貢献を思えば妥当だろう。……感謝を言うなら、これからも結果で示せ」


「……しかし、なぜ私を?」

 意外に思い、ボリナークは問い返す。


 ライセンは組んでいた腕を解き、片手で机を叩いた。


「当たり前だ。お前には“生き残るために必要なもの”がある」


「生き残る……ために」


「そうだ」


 傷跡の下の鋭い視線が、氷のように突き刺さる。


「冷静さだ。――表面がどう見えようと関係ない。強大な敵に仲間を殺され、自分が血まみれになっても、頭を冷やして立ち回れる奴はそうはいない」


 ライセンはわずかに口端を吊り上げる。


「その冷静さから生まれる洞察と判断。どんな地獄にいても、必ず活路を見出せる。……お前にはそれがある」


 その言葉に、ボリナークは胸の奥が熱くなるのを覚えた。

 認められた――ただの功績や序列ではなく、自分の資質を。

 だからこそ、彼はこの日を忘れなかった。


◇◇◇◇◇


「ぐ……! まだ、終わる訳にはいかぬ……《聖光再生ルクス・サナティオ》!」


 光に包まれ、千切れた肉と砕けた骨がゆっくりと繋がっていく。

 激痛に顔を歪めながらも、なお彼は生きようともがいた。

 癒やしの光が深奥まで染み渡り、灼けるような苦痛がわずかに和らぐ。


 「……はぁ、はぁ……まだ、だ」


 光が傷を癒し、毒を押し返す。


――どんな地獄でも冷静に考えれば活路はある。

――


 ライセンの声が響く。

 光が肉体を繋ぎ、再び立ち上がる。

 ボリナークは確かに感じた――「まだ戦える」と。

 次の瞬間、背筋を氷の指先で撫でられるような悪寒が走った。

 見えない『何か』が背後から絡みつき――喉を容赦なく断ち切った。


 ボリナークの喉から鮮血が散り、徒花を咲かす。


「ライ、セン……ざま……」


「メルシィ・ボクゥ……終幕デス」


 リカールが舞台の幕を引くように、鮮やかに一礼した。


 ――そして、聖杯騎士団の勇士ボリナークは、喉から血を噴き上げながら、血の海へと崩れ落ちた。


 その時、闇にきらめく細い光が、戦場を縫うように揺らめいた。


 それは無数の「糸」だった。

 すでに絶命した騎士たちの四肢へと絡みつき、まるで死体を操り人形にでも変えんとするかのように伸びていた。

 やがてその糸は、血に濡れた肉塊から離れ、ゆらりと収束していく。


 惨劇のただ中に、屍山の静寂を裂くように、漆黒の影が立ち現れた。

 クラウスである。

 彼は淡々と糸を巻き取り、操り終えた人形のように動かなくなったペラを拾い上げ、土埃を払った。


 その所作は、戦場に似つかわしくないほど静かで――しかし、冷酷にして優雅だった。


 やがて闇からレシアが姿を現す。

 同時に、のっそりとウォドンとエルメルスも合流した。


「ちぇっ、せっかくこしらえた斬馬刀だってのによ。馬の一頭くらい切り倒してみたかったんだがな」


「しかし〜、私たちの標的、だいぶ離れちゃったんじゃないですか? 探すの大変になっちゃいますね〜」とエルメルスが肩をすくめる。


 リリィは棘の鞭を操りながら、グリフォンとサンドウォームに人肉を与えていた。


「ま、私の“友達”に見張らせてるから、居場所は分かるけどね〜」


 少し得意げに言うリリィ。


「さっすがリリィさん! 普段ただの駄々っ子っぽいのに、抜け目ないっすね!」


 ウォドンが笑いながらリリィの背中を叩く。


「はあ!? だ、駄々っ子!? マジあり得ない!」


 リリィは顔を真っ赤にし、バシンと鞭をウォドンに鋭く叩きつけた。


「いってぇ!? ま、待ってくだせぇリリィさん! 褒め言葉のつもりでして!」


 ウォドンは背中をさすりながら情けない声を上げる。

 そんな中、クラウスは人形を手にはめ直し、冷ややかに言った。

「戯れ合ってないで、さっさと追うわよ」


「はーい!」と、レシアとリリィ、そしてエルメルスが揃って返事をする。


「……だから、この人形にだけは、嫌に素直なんだよな。クラウスの野郎なのに」


 ウォドンがぼそりと呟く。


「ウィ、ウィ。仲良きことは、美しきかなデスネ!」とリカールが調子よく付け加えた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたならいいねやフォロー、コメントをいただけると、とても励みになります。

皆様の応援が次のお話を書く力になりますので、よろしくお願いいたします。

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