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最強にして記憶喪失。だが神子様は蛮行を許さない!  作者: 死神丸 鍾兵
第三章 〜救いの旅団〜「キャラバン編」
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第41話:聖杯騎士団カリクスオルド

〜前回までのあらすじ〜

 記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅に出る。

 ウェイシェムが死の街と化し、命からがら脱出。

 放浪中、キャラバンのメンバーとして迎えられ、苦手だった人との交流を学びながらノクティアへと向かう。

 一方、盗賊団ブラックペリルは、聖杯騎士団カリクスオルドに狙われていた――

 

 砂塵の中、馬列は静かに迫る――その圧迫感は、ただの戦闘集団ではない、神聖なる使命を帯びた騎士団特有のものだった。


「……あの集団、ただの騎士じゃないみたいだ」


 クラウスが人形ペラを覗き込み、低くつぶやく。

 すると人形が口を開きながら解説をした。


「おう、ヒヨッコ共。あいつらは『聖杯騎士団カリクスオルド』。『聖杯教団カリクスセクト』お抱えの武闘派集団。いわば王国と宗教の守護者。使命は、国を荒らす私たちのような盗賊や魔物討伐、他国からの侵略から防ぐこと」


「そ、そのくらい、いくら私でも知ってますよ……」


 レシアが小声で繰り返す。

 今度はクラウス自身が説明する。


聖杯騎士団カリクスオルドの騎士には階級がある。上位階級の『聖騎士』になると、聖杯教団カリクスセクトの象徴である『翼を広げた聖杯の紋章』が胸甲に刻まれる。戦場で隊を率いる役目だ。その中でも紋章の色で階級が分かれている」


「で、アイツらの階級はどんなもんなのさ?戦っちゃっていいの?さっさと教えなさいよ」

 リリィは鼻を鳴らす。


 クラウスは、二つの筒状の先端にレンズを嵌めた魔具フェルマを懐から取り出し覗き込む。

 そして、声を変えるのを忘れ、ただペラちゃんの口をパクパクさせて答える。


「えーと、十三騎いるけど『聖騎士』は三。内、銀が一、銅が二……おそらくソイツらがこの隊の主力」


「え、銀? 確か前に団長が『″聖銀騎士″との衝突は極力避けろ』って言ってた気が……」

 エルメルスが不安げに答える。


「ひぇー、じゃあ、やめよ? ″聖銀″は危ないよ。逃げよ?」

 レシアがひらひらと手を振る。


「ま、もうすぐそこまで来てやすんで! ″聖銀″も″聖銅″も″紋章なし″も関係ありやせんよ!」

 ウォドンが額に手を当てながら言った。


「うわー、超ダルー」

 リリィが気だるげに吐き捨てる。


 ――次の瞬間。

 ハープの弦が爪弾かれ、澄んだ音色が鋭い光を帯びて空気を震わせた。


「もう〜、やるしかないってことですよね? 奏でますよ――《精神奏詠セレン・カンタービレ》!」


 ひとつめの音で神経を研ぎ澄ませ、

 ふたつめの音で胸の奥の火種を叩き起こす。

 旋律が加速するたび、呼吸は浅く、速くなり、

 指先や踵が熱を帯び、全身の血が戦いを欲して脈打ち始めた。


〜♪〜♫


 耳に届く音は心臓の鼓動と同調し、恐怖は溶け、

 代わりに「叩き潰せ」という衝動が膨れ上がっていく。

 それはただの演奏ではない――

 戦場の獣を呼び覚ます、血をたぎらせる魔術の調べだった。


「ジュ・ボワ。ゲリラ公演――開幕と行きマスカ!」

 リカールは胸元のドミノマスクを装着し、笑みを深めると、

 マントを翻して跳躍。宙を裂き、獲物の群れに向けて滑空する。


 リリィは手のひらサイズの禍々しい箱を取り出した。

 黒い金属の格子は脈動し、内側から低い唸りが漏れる。


「ちょいアガってきた……《縮魔檻シュルマーカステン》――おいで、グリフォン!」


 箱は瞬く間に縦横四メートルほどにまで膨れ上がり、

 格子が開くや猛禽と獣を併せた巨躯が羽ばたき、火花を散らしながら大気を切り裂くように飛び出した。

 リリィはその背に飛び乗ると、甲高い笑い声と共に夜空へ舞い上がった。


「あたいも行くわよ」


 クラウスは腕からペラちゃんを外し、無造作に放る。


「行ってこい。ペラ」


 人形は音もなく浮かび上がり、低く唸るような風切り音を残して騎士団の方角へと飛び去った。


「わ、私も……!」

 レシアは短く息を吐くと、忽然と姿を消した。

 それは逃げたのではなく、世界から存在ごと掻き消えたかのようだった。


〜♪♬


 旋律はなおも加速する。

 演奏を続けるエルメルスの前に、ウォドンがどっかり腰を下ろす。


「しゃあねぇ。俺はここで待ちやすぜ――獲物が寄ってくるまでな」



 騎士たちの視界に、三つの影が迫る。

 そのうち、最も速く接近してきた一つが、百メートルほどの上空で不意に速度を殺し、静止した。

 空を舞う髪と外套。悠然と宙に立つ男――リカール・バルビエ。


「さあさ、メダム・メッシュー――これより〝ブラックペリル〟によるスペクタクルです」


 彼は仰々しく一礼し、口端に愉悦を湛えた。


「演目は、『騎士たちの徒花』……でこざいマス」


「対象は空中三体! 一斉に、放てー!」


 ボリナークの号令が雷鳴のように響く。

 一般騎士たちは一斉に弓を引き絞り、鎧の間から覗く腕筋が緊張で盛り上がる。弦が震え、矢羽が風を裂く音が重なった。

 次の瞬間、数十の黒い閃が空へと放たれる。


 その矢雨を追うように、前列の聖騎士たちが胸甲の紋章に右手をかざし、重々しい詠唱を紡ぐ。

 白銀の紋章がまばゆく輝き、光が剣先に集束していく。空気は焦げた匂いを帯び、刃からほとばしる雷光が空気を震わせた。


「光よ、雷よ――その槌を振り下ろし、悪しきものを討ち砕け!

 我らの名は聖杯の守護者――《雷槌閃ライトニング・グラリア》!」


 咆哮とともに、白金の雷槌が天を割る。

 それは天から降る落雷ではなく、大地から逆巻く雷を撃ち上げるような閃光――矢の雨を縫い、空へと奔る。


 狙うは三つの影。

 黒翼で急降下するリカール、グリフォンと共に舞うリリィ、そして宙を滑るように漂う小柄な人形――ペラ。


 しかし、雷槌は獲物を捕らえる直前、空を裂くだけで霧散した。

 リカールは紙一重で身を翻し、グリフォンは雷光をかすめて急上昇、ペラは感情のない軌道で滑るように後退していた。


「うげっ、『聖騎士』って全員、白魔術使えんの!? 羨ま! こりゃ下手に突っ込めないじゃん」


「次の矢、打てぇーーー!」


 リリィはグリフォンの背で翼を傾け、矢の雨を舞うようにすり抜ける。速度を落とさず、だが距離を保ち、獲物を狙う猛禽のように上空を旋回する。


 一方、リカールは迷いなく突っ込んだ。滑空の勢いをそのままに、矢と雷を紙一重でかわし、翻ったマントの陰から光を反射する銀刃が次々と現れる。

 一本、二本――いや、三本を一束にして投げ、間髪入れず次の三本を放つ。連射の間隔は呼吸すら許さず、刃は小さな流星のように騎士団の列を裂いた。


 聖騎士たちは盾で刃を弾き、同時に胸甲から走る雷光を返す。白金の閃光が空気を焦がし、戦場は刃と雷鳴の閃きで塗りつぶされた。


 その混乱の中、ペラが滑るように突進――騎士の一団の中を縦横無尽に駆け回り、半ば回転するように斬りつける。

 無機質な人形の四肢から伸びた刃が、腕は剣のように、脚は鎌のように軌跡を描き、騎士たちへ無感情な死を突きつけた。


「くっ、なんなんだ、この不気味な人形は!」


 剣と刃がぶつかる度、金属音が連続して響き、戦列はじりじりと押し込まれていく。


 ――その瞬間、轟音と共に地面が裂けた。

 亀裂から立ち上がるのは、白雷をまとった巨大な槍。

 槍の穂先は天を穿ち、落雷のような一閃を放つと、空中のリリィとグリフォンを狙い撃った。


「っ――!」


 空気が焼ける臭いと同時に、リリィの翼――グリフォンの片翼がかすめられる。火花と羽毛が散り、グリフォンが悲鳴を上げて高度を落とす。


「おや?」


 リカールがリリィを見上げ、手を止めた瞬間、騎士たちが一斉に前進。雷槍の出現が合図となり、押し込まれていたはずの戦列が一気に反転する。

 燐光をまとった剣と槍が雨のように降り注ぎ、ペラやリカールの包囲網が急速に狭まっていった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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皆様の応援が次のお話を書く力になりますので、よろしくお願いいたします。

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