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最強にして記憶喪失。だが神子様は蛮行を許さない!  作者: 死神丸 鍾兵
第三章 〜救いの旅団〜「キャラバン編」
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第40話:盗賊団ブラックペリル

〜前回までのあらすじ〜

 記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅に出る。

 ウェイシェムが死の街と化し、命からがら脱出。

 放浪中、キャラバンのメンバーとして迎えられ、苦手だった人と交流をすること学びながらノクティアへと向かう―

 午後、太陽が傾きはじめたカルネリア村外れ。街道脇の大木は長い影を落とし、ひぐらしの声が遠くで鳴く。そこに六つの影が寄り合った。


「おう! 待たせちまいやしたか?」

 紋章を刻んだ斬馬刀を肩に担ぎ、屈強な大男が現れる。ウォドン・ターム――先ほど鍛冶屋でレオスとやり合った男だ。

 背にはさらに戦斧を背負い、頭は一本の毛もない剃り上げ。額から片目の下まで大きな傷が走っている。使い込まれた銀鎧が、陽の下で鈍く光った。


「もう、二人とも遅い! 何分待たせてるのよ!」

 腰まで伸びるピンクの髪を乱し、棘付きの鞭を弄ぶのは少女――リリィ・ハーレーン。毛皮のマントの隙間から、立ち襟の革製タイトベストが覗いていた。

「アタシ、人を待たせることはあっても、待つのは大っ嫌いなの。知ってるでしょ?」

 頬をふくらませる様子は、年相応の少女らしさと獣の警戒心を同時に宿していた。


「リリィちゃん、ごめんね。ウォドンさん探すのに迷っちゃって……」

 背には細かな紋章が刻まれた金属製の小型ハープを丁寧に包んだケースを負う、金髪の少女――エルメルス・ハーネット。先ほどウォドンと行動を共にしていた彼女だ。

 柔らかな生成り色のブラウスにレースを縁取った襟と袖、膝丈のフレアスカートが歩みに合わせてふわりと揺れ、裾の金糸刺繍が小さくきらめく。腰には小さな革のポーチ、頭には羽飾り付きの丸帽子をちょこんと乗せ、まるで絵本から抜け出したような愛らしさを漂わせていた。

 申し訳なさそうに胸元で両手をもじもじさせながら話す。


「そんなことよりさ」

 肩まで伸びた黒髪を揺らす褐色肌の少女――レシア・フラノルディが割り込む。手にはじゃらじゃらと光るアクセサリー。先ほど横転した荷馬車からくすねたものだ。

「じゃーん! 見て見て〜。可愛いの見つけてきたの! 欲しいのある? 皆で山分けしよ!」

 細い体に不釣り合いな数の皮ベルトを巻き、そこには小さな仕込みナイフや液体小瓶が覗いている。


「さぁさ、メドゥモアゼル、バディナージュはまたの機会にして次の公演会場まで急ぎまショウ!」

 癖っ毛気味の橙髪で仮面を胸元に引っ掛けた細身の青年――リカール・バルビエが声を張る。黒のベストとジャケット、光沢のある絹のシャツ、その上から肩を覆う黒マントを羽織り、優雅さと胡散臭さが同居する。両手を大きく広げる芝居がかった仕草で言った。

「我ら“ブラックペリル”の大スペクタクルを待ちわびている人がいマス」

 観客を惹きつける触媒のような声音だった。


「……うむ」

 黒衣に白髪を無造作に伸ばした青年――クラウス・フォルテが短く応じる。端正な顔立ちの奥に計算の色を宿し、脇にはつぎはぎの女性用カツラを被った奇妙な人形を、大木に立て掛けていた。

「リカールの言う通りだ。対象を見失うわけにはいかん。急ぎ奴等を追い、遠巻きから尾行するぞ」

 呼びかけてはいるが、声量の小さいその声は周囲の喧噪にかき消されがちだった。


「え〜なになに?」

 リリィがレシアの手元を覗き込む。

「お、レシアってば超センスあんじゃん〜! やっぱ時代はこの獣耳キーホルダーっしょ? 他も見せて〜」


「ねぇ、リリィちゃん」

 エルメルスがリリィのマントを軽く引く。

「……リカールさんと、多分クラウスさんも、なんか言ってるよ?」


「じゃあ、リリィちゃんとアタシで選んじゃうね」

 レシアが悪戯っぽく笑う。

「エルちゃんのは余りもの〜♪」


「え、待って……私もその獣耳の、欲しい……!」

 エルメルスが慌てて手を伸ばす。


「ま、まぁ、嬢さん方」ウォドンが額をかきながら。

「今はクラウスの野郎の話に従った方がいい気がしやすぜ」


 ウォドンは男には強気な反面、女の子にだけは極端に弱くなり、腰が低くなる。


「イル・ア・レゾン!いざ、参りまショウ!」

 リカールが指を鳴らす。


「ハゲうっさい。リカールも意味不〜」

 リリィが即座に切り捨てる。

「てかアタシたちの話終わったあとでも良くない〜? レシアもそう思うっしょ?」


「これも可愛いよね〜……え? なんか言った?」

 レシアは夢中で別のアクセを見ている。


「あ、だからっすね」

 ウォドンが溜息をつく。

「ターゲットを早く追いやせんと――」


 その瞬間――クラウスが無言で人形に腕を差し入れる。喉仏が小さく上下するが、唇はほとんど動かない。


クラウスが人形を持ち上げた瞬間、全員が一瞬だけ口をつぐむ。人形の口がカクンと開き、次の瞬間――


「このガキども、ギャアギャアうるさいわね! ここは家畜小屋か! 喉元、裂いて飾るわよ! ――クラウスの話、聞きな!」


 甲高い女声が爆ぜた。

 一拍、風の音すら止まったかのような沈黙が落ちる。


「……ペラさん、口が悪すぎる」とクラウスが小声で人形の頭を軽く叩く。

「俺はただ――」


「はいはい、アンタは黙ってな、坊や!」


 ペラさんと呼ばれた人形が畳みかける。


「団長から連絡来てんの! 標的が動き出す前に、とっとと尾けるの! ――全員、出発!」


「はーい! ペラちゃん久しぶり! 了解、すぐ行こ!」とリリィは一転して上機嫌、敬礼の真似。


「じゃ、急がなきゃね」とレシアはアクセを手早く懐へ。


「助かったぁ、ペラちゃんがいると話が早い〜」とエルメルス。


「……いつも思うけどよ」

 ウォドンがぼそり。

「嬢さん方、あの不気味な人形の言うことは素直に聞くんだよな。喋ってるのはクラウスなのに」


「エクザクトマン。マドモアゼル、ペラは声が大きいからネ」とリカール。


「……声量だけの問題ではないだろう」とクラウスが小さく肩をすくめる。


 すると、突如乾いた大地を震わせ、蹄の轟きが迫ってくる。


「なんか〜、ウチらに向かって来てね?」


 轟く音の方向を指差すリリィがつぶやく。

 全員の視線が、その細い指先の先へ集まった。

 砂塵を巻き上げながら、十数騎の馬影が視界に入り、瞬く間にその影が大きくなる。


 ――一方、その馬上。


「本当にあいつらですか!? ボリナーク隊長! 盗賊団ブラックペリルは!」


 若い騎士の声が、蹄音の間を縫って響く。


「間違いない!」


 先頭に立つ壮年の騎士――ボリナーク・ヨルマン他の騎士とは異なり、その胸甲には翼を広げた聖杯の紋章があしらわれ、白銀が鈍く光を反射していた。鋭い目つきと厚みのある鎧の隙間から覗く両手の動きは、長年の戦歴を物語る。


「窃盗を中心に、殺人、脅迫、神聖物破壊……商業都市ノクティアを周辺を拠点として、そこに繋がる交易路を何度も荒らした凶悪な連中だ。メンバー″八名″。全員が腕利きだ」


 ボリナークの左右の騎士には、銅色の同じ紋章が胸甲にあしらわれていた。

 右翼先頭、二振りの銀色の剣を腰に携えた女性騎士――レディ・タイン。淡い青のマントが馬上で揺れ、鋭い視線がブラックペリルを追う。


「1,2,3……今は六名、襲うなら全員集まっていない今が好機です」


 左翼先頭、豪華なマントを纏い、モーニングスターを携えた騎士――ガイウス・フォルスが続く。


「しかし、……あんな幼い娘も含まれるのですか??」


「油断すれば、こちらが返り討ちに遭う。気を引き締めろ」


 その後方には、十騎ほどの一般騎士たちが続く。鎧は重厚感のあるシルバー製で、手足を覆う装甲も整い、剣や槍をしっかりと握っている。胸甲には紋章こそないが、鍛え上げられた装備が彼らの戦闘力と訓練の成果を物語っていた。見た目だけでも一線級の戦力であることがわかる。


「テシュビト神の御名にて、前進!」


 ボリナークが片手を挙げ、号令を出す。


 十数騎の馬列は一糸乱れず、砂塵の壁を突き破るように進み続ける。

 騎士たちの手には銀色の剣がギラリと光り――

 その刃先が、今まさにブラックペリルへ向かって伸びようとしていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたならいいねやフォロー、コメントをいただけると、とても励みになります。

皆様の応援が次のお話を書く力になりますので、よろしくお願いいたします。

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