第39話:再出発の刻
〜前回までのあらすじ〜
記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅に出る。
ウェイシェムの地にて激闘の末、黒幕ゾディを打ち破るが、その街の人間すべてが死に、歩く屍人となる悲惨な結果に。
命からがら脱出し、放浪していたところ、大規模なキャラバンに迎え入れられた。マルバスに指摘され、苦手だった人との交流を学ぶことになり―
ロアスは市場の一角で、普通のフード付きマントを何度もかぶっては外していた。
しかし、頭の両側にある大きな角がどうしてもフードの内側で盛り上がってしまい、見た目が不自然だ。
「……普通のフードじゃ、角を隠せない」
そう呟くロアスに、エレカが明るく答えた。
「そうなのよね。じゃあ、これなんかどう!?」
エレカが持ってきたのは――犬耳の付いた、フード付きマントだった。
「……なんだこれは?」
「ほら、この耳の部分、本来はただの飾りだけど、角とフィットするんじゃないかと思って」
最初は半分ただの冗談だった。だが、ロアスは無言のまま受け取り、試着してみる。飾りである耳部分にすっぽり角が収まり、違和感なく着られた。
それを見たフィンの中で何かが走る。
(か、かわいい!ロアスさんの無表情さとこの可愛らしい犬耳マントのギャップが、可愛い!絶対着て欲しい!)
「あら、そのフード、ロアスくんの角にぴったり合うわね。じゃあ耳付きの系統探してくるわね」
そう言うエレカに対し、訝しげるロアス。
「確かに、角の収まりはいい。……が、これ、俺のようなヤツが着るの、おかしくないか?」
「まぁ、確かにね……」
そう言いかけるエレカにフィンが無言でエレカの裾を掴み、「ちょっとお話が……」と言い、少し離れたところに移動させる。
そんな姿を見て少し首を傾げたが、フード選びに集中するロアス。
「あら、ど、どうしたのよ。フィンちゃん?」
「エレカさん。私、あの獣耳フード、好きです!ロアスさんに着て欲しいです!なんとか、説得させることはできないでしょうか」
恥ずかしそうにお願いするフィンの姿を見てお願いされたエレカ。彼女は悪戯っぽく笑うと、「ふふ、可愛いフィンちゃんのためね。お姉さんに任せなさい」とVサインをして、ロアスのところに戻る。
「ロアスさん、最近ね、種族差別をなくそうっていう動きがあって、その先駆けとして女子たちの間で獣耳付きフードがファッションとして流行ってるの」
「……流行りか」
確かに、店先に並ぶマントは、必ず″亜人種風″というコーナーがあり、猫耳や狼耳、うさ耳など多種多様の獣の耳が付いたものが集められていた。
ロアスは眉をひそめて、やや警戒しながらフードをかぶる。
「……確かに、隠せる。が、やはり俺のような者がこれはおかしいよな」
するとフィンは、少し離れたところから穴が開きそうな勢いでロアスをガン見していた。
(ロアスさん……か、かわいいと思います……でも、私の口からは恥ずかしくて言えない……)
フィンの気持ちに気づいたエレカが微笑みながらロアスに向き直り、明るく声をかける。
「いやー、ロアスくん、割と強面だから、これぐらいで中和されてちょうどいいと思うな。それにすごく似合うと思う。私は、違和感ないと思うな! ね?フィンちゃん?」
フィンはさらに背中を押されて、少し照れながらも続けた。
「そ、そうですよね!……わ、私もそう思います!」
ロアスは無表情のまま二人を見つめ、少し戸惑いながらも口を開いた。
「……お前たち、本気で言っているのか?」
フィンは赤くなった顔を必死に縦を振る。
「ほ、本気です!」
エレカはニヤリと笑い、からかうように言った。
「ほら、アンタの命の恩人の可愛い子神子様はこう言ってんのよ?」
ロアスは一瞬沈黙し、ため息交じりにこう答えた。
「……しかしな」
さらにエレカが続ける。
「それに、こういう可愛らしい感じの方が、キャラバンの皆ともコミュニケーション、しやすくなるんじゃない?」
「だがな……」
さらにフィンからの援護射撃が入る。
「ほ、ほら! 滞在時間にも限りがあるんですよ! アテネさんから購入したその服しかないんですよね!? お着替え用を選ばなきゃ!
それに、ロアスさんの時間だけじゃないんですよ! 私たちの必要な品の買い出しもありますし、これから食事する時間も必要ですし、マントはもうそれを買って、次行きますよ!」
「……それ仕方ない。だが、笑ったら承知しないぞ」
その瞬間、フィンは心の中で歓喜の声をあげていた。
(やった!ロアスさんの犬耳フード、絶対似合う!)
ロアスが店員を呼んでいる時、フィンとエレカはロアスの死角で無言のハイタッチを交わす二人だった。
⸻
ロアスたちは、他の買い物も終え、犬耳マントを大事に入れた荷物を抱え、予定より少し早くキャラバンへ戻ってきた。
ふと見ると、キャラバンから少し離れた場所で二つの人影が向かい合っている。
――よく見ると、それはマルバスとダラスだった。
「あら? 団長と、ダラスくん?」とエレカがまゆをひそめる。
「お二人とも何を話しているのでしょうか?」
フィンは、二人の間にいつもと違う空気を感じ、胸の奥がざわついた。
一方のロアスは、ただ少し不思議そうに首をかしげるだけだ。
近づくにつれ、張り詰めた空気が肌に触れるようだった。やがて、話し声が耳に届く。
「――今は元気そうじゃないか。それじゃダメなのか?過去のことを思い出させなきゃいけない理由があるのか?」
マルバスはいつもの明るい雰囲気ではなく、声を少し荒げていた。
ダラスは冷たく答える。
「……そこは話すつもりはない。また気が変わったら言ってくれ。俺は諦めないからな」
言い終えると、ダラスは大きく舌打ちし、キャラバンの荷馬車の陰へと去っていく。
二人のやり取りを目の当たりにしたロアスは内容がよく飲み込めず、ただ二人の間の空気を感じ取る。
(……今の、ロアスさんのこと?)
フィンは胸の奥で引っかかりを覚えながら、そう思った。そして、思わず小声でエレカに尋ねた。
「あの、エレカさん今のって――」
フィンが言い終わる前に、エレカはマルバスに駆け寄り、気を使うように声をかける。
「どうしたんですか? 何かあったんですか?」
残されたマルバスはため息をつき、ふとこちらに気づくと、慌てて笑顔を取り戻した。
「お、戻ってたのか! 少し早かったな?」
「ええ。あの、団長、今のって?」エレカは聞き返す。
「おっと、聞かれてたか」
マルバスは少しバツの悪そうな顔をし、片手を振って軽く笑ってみせた。
「いや、なんでもないさ。俺のいつもの無神経さがダラスを傷つけちまっただけだ」
はぐらかすような口ぶりだったが、その目は笑っていなかった。
「ほら、みんな揃ったら出発だぞ。キャラバンに急ごう」
「はい……そうですね」
三人はそれ以上、深く追求することができなかった。
やがて、他の隊員たちも荷物を抱えて広場に集まりはじめた。マルバスはいつもの調子で団員に指示をしていた。
「よし、そろそろ時間だ! アテネ嬢、点呼を頼む!」
呼ばれたアテネは小さく頷き、名前を順に呼び上げる。
「ロアスさん、レオスさん、ネロさん……全員、揃っています」
その報告を聞くとマルバスは声を張り上げた。
「よし、出発だ! さ、この先は魔物の多い地帯になる。気をつけて行こうぜ!」
掛け声とともにキャラバンの隊列が動き出し、荷車の軋む音と砂ぼこりが街道に広がっていく。その向こうには、淡く揺れる地平線が続いていた。
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