第37話:カルネリア村の剣鎧横丁にて
〜前回までのあらすじ〜
記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅に出る。
ウェイシェムの地にて激闘の末、黒幕ゾディを打ち破るが、その街の人間すべてが死に、歩く屍人となる悲惨な結果に。
命からがら脱出し、放浪していたところ、大規模なキャラバンに迎え入れられた。マルバスに指摘され、苦手だった人との交流を学ぶことになり―
カルネリア村の武具専門店が並ぶ通り、剣鎧横丁。革の匂いと鉄の匂いが入り混じって漂っていた。露店の軒先には磨き上げられた剣や槍、鎧がずらりと並び、時折、商人が鎧の胸板を叩く軽い金属音が響く。
ネロとレオスは並んで歩きながら、柄の装飾や刃の反り具合を手に取り確かめていた。
「ここ、小さな村なのに武具や防具、品揃えがいいな」
レオスが棚の上に並ぶ剣を見上げながら言うと、奥から出てきた店主が鼻で笑った。
「そりゃあな。この村は街と街の中継地点だ。冒険者や旅人が通りすがりに武器の買い足しに来るし、昔から鍛冶や革細工が盛んなんだよ」
店主が布で短剣を拭うたびに金属のかすかな匂いが漂う。
「それに……イーラディアの動きがきな臭くなってきてな。身を守るために武具を揃えるって連中も増えてる。最近は活気づいてるぜ」
ネロは槍の穂先を指先で軽くなぞり、その冷たさに眉をひそめる。
店主は声をひそめ、レオスの方をちらりと見やった。
「近寄りたくはねぇが……ウェイシェムの方で変な噂が流れてる。あの街、ただの犯罪都市じゃ済まなくなるかもしれねぇ」
その名が出た瞬間、レオスとネロの視線がわずかに交差した。
ほんの一拍、間が空く。
「へ、へぇ……そうなんだ」
二人は、あえて何でもない調子で答える。
レオスは手にしていた剣の柄をじっと見つめ、ネロは視線を外して壁際の盾を眺める。
まるで噂には大した興味がないように――だが、心臓の鼓動がほんの少し速くなっているのを互いに感じていた。
少し変な汗を垂らしながら、レオスは話題を変える。
「しかし……剣や槍は素材と鍛冶の腕で全然性能が変わり、重さにやっても威力が変わる。防具も、金属製は防御力が高いけど重くて動きが鈍くなる。革や布は軽いけど耐久が低い。その人の筋力や戦い方に合わせるのが大事だよな」
言いながら、ネロは店先の防具に視線を向けた。鉄板に革を重ねた胸当て、動きやすさを重視した鎖帷子、冒険者向けの軽装。
「……ボクは魔術も武術、筋力にも恵まれなかったから、″闘気術″を学ぶことにしたんだ」
「この前、少し″闘気術″の説明は受けたが、よくわからん。結局……魔術と何が違うんだ?」
レオスが隣で槍の穂先を目の高さに持ち上げながら問う。
「″闘気術″は体の内にあるエネルギーを引き出して、筋力や反応速度を強化したり、特定の技を繰り出したりするんだ。魔術みたいに呪文や詠唱は要らないけど、技のコツを掴むまでが難しい。」
ネロは革の籠手を手に取り、指先で縫い目をなぞりながら答えた。
「俺も冒険者として三年以上依頼をこなしてきたが、闘気ってのは聞いたことねぇ。……が、思い当たる節はあるな」
「へぇ、どんな?」
レオスは柄の装飾が派手な槍を軽く回し、その重みを確かめながら続ける。
「前の俺の冒険仲間によ、凄腕の槍術使いがいたんだが、そいつはよ、扱う槍から常に熱が帯びて、本気を出すと炎や風を巻き起こせるんだよ。我流の槍術だっつって、自分でも原理をよくわかってなさそうではあったな」
「闘気については、まだ謎も多いし、世間的には知ってる人も少ない。ただその話を聞いた限りでは、それは″闘気″だね。レオスくんのお仲間のように、知らない内に使っている人も一定数いる」
ネロは鎧の肩当てを持ち上げ、日差しに反射する鈍い光を見やった。
「ウェイシェムにいたエレゴレラって野郎も、瘴気のような気を使うヤツもいたがあれも″闘気″か? この剣でぶった斬ってやったがな」
レオスは腰の剣の柄を軽く叩く。
「多分、それも″闘気″だね。″闘気″にも魔術のような六属性理論が通じるとは思うんだけど、まだ確証はないかな。結局、肉弾戦だと、魔術と違って剣術や武術、単純な筋力が大事だったりもするからね……」
「ふーん……とりあえず、俺は剣の腕を上げたいから、武具と防具は、いいの探そー」
彼らは通りの雑多な店を眺めつつ歩き出す。布地や革細工、鍛冶屋の金属の匂いが混じり合う通りの片隅で、ふと美しいハープの調べが響いた。
その音を紡いでいるのは金髪の若い――成人して一年ほどの、落ち着きと若さが同居する女性。手持ち可能な小型ハープ一つから、透き通るような音色を紡ぎ出していた。その音楽は人々を魅力し、疲れを癒す。その場にいる多くの人々は足を止めてその音を楽しんでいた。
ネロは小銭を取り出し、投げ銭箱へとそっと入れた。
そんなネロに少女は、無言で微笑み会釈する。
「いい音色だな」
「ハープか。よくこんな若さでこの音色を出せるな」
レオスは感心しながら頷いた。
そして、その先に武具防具の店が並ぶ通りが続く。
看板には「ハンス重鋼鍛冶」と記されている。
鍛冶屋の店内には、鉄と油の匂いが満ちていた。壁には槍や剣、鎧が所狭しと並び、昼間だというのに薄暗い。
売り場の前では、子連れの父親が真剣に防具を選び、子どもが退屈そうに武具を見つめている。
カウンターの前では、ひとりの客が巨大な刀を手に取り、にやにやと笑っていた。刃渡りは人の背丈ほどもあり、戦いに縁のないような一般人だと持ち上げるだけでも骨が折れそうだ。彫り込みが幾重にも刻まれ、異様な威圧感を放っている。光を浴びるたびに冷たい青のきらめきを放つ。
「……やっぱり飾り映えするなぁ。家の武具コレクションに加えたら完璧だ」
男は満足げに笑い、刀を掲げてみせる。
「……あんた、これを壁に飾る気か?」
低く冷ややかな声がカウンター奥から響いた。店主の目は細く、刺すような光を宿している。
「こいつは俺の亡き祖父が打った業物だ。血を吸わせてこそ輝く剣。実際に使う者にしか売らねぇ」
「なんだと? 俺だって多少剣の心得はある。テメェをのすぐらいの力ならあるんだぜ?」
客がカウンターに詰め寄り、乱暴に店主の胸ぐらを掴もうとした、その瞬間——。
「やめな!」
後ろから伸びた手が、客の手首をがっちりと掴んだ。レオスだ。
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