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最強にして記憶喪失。だが神子様は蛮行を許さない!  作者: 死神丸 鍾兵
第三章 〜救いの旅団〜「キャラバン編」
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第36話:カルネリア村での旅支度

〜前回までのあらすじ〜

 記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅に出る。

 ウェイシェムの地にて激闘の末、黒幕ゾディを打ち破るが、その街の人間すべてが死に、歩く屍人となる悲惨な結果に。

 命からがら脱出し、放浪していたところ、大規模なキャラバンに向かい入れられた。マルバスに指摘され、苦手だった人と交流をすること学ぶことになり―

 そうした日が三日続き、ロアスたちはキャラバンの一員として穏やかな日々を過ごしていた。そんなある昼前、キャラバンは日差しが真上に昇る少し手前、小さな村の入口にたどり着いた。


 そこはカルネリアという村。道の両脇には、腰ほどの高さの土壁と、日焼けした藁屋根の家々が寄り添うように並んでいる。乾いた風が砂埃を巻き上げ、軒先で干された香草をぱらぱらと揺らしていく。遠くからは羊の鈴の音が微かに聞こえ、鼻先をくすぐるのは干し肉と焼きパンの香ばしい匂いだった。


 村の中心には小さな市場があり、布を広げただけの露店がまばらに並んでいる。麻袋から顔をのぞかせる豆や、素朴な刺繍を施したハンカチ、色あせた革靴など、生活感に満ちた品が並び、店先では子どもがはしゃぎながら客を呼び込んでいた。また、一つ通りを外せば武具や防具、鍛冶屋などが並ぶ露店もある。


「よし、カルネリアに到着だ!ここで食材と水を補充する。三刻ほど滞在だ。各自、用事を済まし、昼飯もここで食っておけ」

 荷馬車の先頭で、マルバスが腕を組みながら声を張り上げる。その低く響く声に、隊列のあちこちから「了解!」と短い返事が飛んだ。


 アテネはその声を聞き流すように、ひらりとフード付きの白いマントを翻しながら荷台から降りる。

「では私は、雑貨屋で掘り出し物がないか物色してきますわ」

 その笑みは、まるで今から舞踏会にでも出かけるように軽やかで、返事を待たずに市場の奥へと消えていった。


 対照的に、ダラスは馬具の点検をしながら低く言った。

「戦力が全員出払うのは良くねぇ。俺はここで見張ってる。他は気にせず行動してくれ」

 言葉はそっけないが、視線は村外れの荒れた道や、荷車の影にも油断なく向けられている。


 それから定刻まで、各自思い思いの自由行動となる。


 馬の世話や荷の積み下ろしに残る者、物資の買い出しに向かう者と、それぞれが慌ただしく動き出す。


 ネロは「ボク、防具を新調しようと思うんだけど、レオス君来る?」と誘い、「おう!俺も武具関係見てみてぇ」と2人は歩き出す。

 この数日で、レオスはネロから“闘気術”というものの手ほどきを受け、以前よりも打ち解けていた。二人は時折、短く言葉を交わしながら、武具、防具、鍛冶屋が並ぶ通りへと姿を消していった。


 一方、ロアスは当初、荷の番を買って出るつもりだった。しかし、出発しようとしたところで、フィンとエレカが彼の前で立ち止まり、行く手を遮った。


「ロアスさんは、まだ社会常識を知りません。危ないので、私に着いてきてください!」

 

 真剣な目で告げられ、ロアスは少しだけ眉を動かす。

 無用だと言いかけたが、小柄な身体からは想像できないほどの迫力と強い視線に言葉を飲み込んだ。


「……そうか。なら、行く」


 その素っ気ない返事に、フィンはなぜか胸がくすぐったくなる。理由は分からない。だがエレカは、それを見逃さなかった。頬に手を添え、にやりと笑う。


「あらあら、なんだかデートのお誘いみたいねぇ?私邪魔かしら?」


「デ、デデ、デデデート!? ち、違います!」


慌てるフィンを横目に、ロアスはただ無表情で「……デデデート?なんだそれは」とだけ呟く。その温度差が、余計にフィンの顔一面赤くした。


 エレカはさらに悪戯っぽく続ける。


「あー、ロアスくん、違う違う。デート――」

「そ、そそ、そーいえば、ロアスさん!あの……あの!」


 エレカの言葉をデタラメですっとんきょうなフィンの言葉で無理矢理遮った。


「えーと、そうだ!ロアスさん、タルゴポリ村を出た時、言ってたじゃないですか!その角を隠せるフード付きのマント買うって」


「ああ……あれは必要だ。キャラバン連中に毎晩イジられる……」


 ロアスは珍しく、その無表情にかすかな陰りを差した。


「団長に散々いじられますもんね」


 エレカはクスクスと笑う。


「ソレを買いに行きましょうよ!ね!?」


 フィンはたまたま思い出した話題で逸らすことができ、内心大きくホッとする。


「それにこの辺の村ならまだしも、ノクティアなど、自警団がしっかりいる大きな街となると亜人の方々は色々と……面倒ですからね」

 と、エレカは少し真面目なトーンで伝えた。


 ロアスは少し考えた。


「……亜人……というのはわからんが、からかわれるのは好ましくない」


「じゃあ、私たちで見立ててあげます!」と、フィンが提案をし、間髪入れず、「おお、それいいじゃない!」と、エレカが面白がって腕を組む。


 フィンは胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。こんな些細なことなのに、どうしてこんなに心が躍るのだろう――その理由は、彼女自身まだわかっていなかった。


〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓


 市場から少し離れた村の南端。

 石垣の向こうから、突然、甲高い悲鳴と騒がしい声が響いてきた。

 フィンとエレカ、そしてロアスは顔を見合わせると、ほとんど同時に駆け出した。


 駆け寄った先で目にしたのは、横転した荷車と、その下敷きになっている年配の男性。そしてすぐそばには、褐色肌に黒髪の華奢な少女が、両手を胸の前でそわそわさせながら立ち尽くしていた。

「ど、どうしましょう……! 助けてください!」

 周囲の村人たちは慌てふためき、どうしていいかわからず右往左往している。


「ロアスくん、車体を持ち上げられる?」

「……できる」


 ロアスが軽々と荷車を持ち上げると、エレカは迷いなく男性の傍らに膝をつき、呼吸と脈を確かめた。

「……この方、運転中に気を失ったのかしら? 転倒時の外傷はそんなに深くはないわ。安静にしていれば、そのうち目覚めると思う。骨のひびは治しておくわね」


「わ、私にできることは?」

 フィンは必死な面持ちで身を乗り出した。


「そこにある私のバッグを持ってきて。それと布と水も……出血は治しておきたいの」

 指示を受けたフィンは、傷口を押さえる布や水を探しに駆け、震える手で介抱を手伝った。


「大丈夫、大丈夫……ほら、息はあるわよ。落ち着いて」

 エレカの声が、張り詰めた空気を少しずつ和らげていく。


 ロアスは荷車を下ろしたあと、ただ立ち尽くしていた。この人をなぜ助けるのか、助けるなら何をどうすればいいのか、それがわからない。その己の無知さが胸の奥で重くのしかかる。


 やがて治療は終わり、見物していた人垣も散っていった。フィンは土と汗で汚れた額をぬぐい、小さく息を吐く。だがその目は、どこか決意の色を帯びていた。


「……私、やっぱり……エレカさんみたいに、人を助けられる人になりたい」


 その言葉にロアスは思わず問いかける。


「……見ず知らずの人だろう。なぜ助けた?」


 エレカは一瞬だけ目を瞬かせ、あっけらかんと答えた。

「困っている人がいれば助ける。それは“人”として当たり前のことよ」


「“人”として、か……」

 ロアスの胸の奥で、何かが静かに揺れた。


 少女はぱっと笑顔を見せ、ぺこりと頭を下げた。

「ありがとうございます♪」

 そうして彼らは現場を後にする。



 ――数分後。

 荷車の影を覗き込みながら、先ほどの少女は小さく舌を出した。

「……オジさん、ごめんなさい。横転させるつもりはなかったの……でも、振り向かれちゃったら、つい」


 散らばった荷台の中から、手のひらに収まる金細工のアクセサリーを見つけると、目を輝かせた。

「ああ、あったあった♪ この髪飾りが欲しかったの❤︎ ……あ、これなんかエルちゃんとリリィちゃんにあげよっかな」


 それらを懐にしまい、まだ意識を失っている男性に向かって軽く手を振る。

「バイバイ、見ず知らずのオジさん♪」


 そして足取りも軽く、スキップしながら村の外へ消えていった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたならいいねやフォロー、コメントをいただけると、とても励みになります。

皆様の応援が次のお話を書く力になりますので、よろしくお願いいたします。


※9/6 場面転換のフォーマット統一

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