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最強にして記憶喪失。だが神子様は蛮行を許さない!  作者: 死神丸 鍾兵
第三章 〜救いの旅団〜「キャラバン編」
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第34話:キャラバンの日常・昼の休憩

〜前回までのあらすじ〜

 記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅に出る。

 ウェイシェムの地にて激闘の末、黒幕ゾディを打ち破るが、その街の人間すべてが死に、歩く屍人となる悲惨な結果に。

 命からがら脱出し、放浪していたところ、大規模なキャラバンに迎え入れられた。マルバスに指摘され、苦手だった人との交流を学ぶことになり―

 それからは「移動する共同体」の日常の始まりだった。

 昼頃、ロアスは、荷馬車の陰で身支度を整えながら、キャラバン内のメンバーが各々の持ち場で働いている光景を静かに見つめていた。

 記憶がない――それは未だ重くのしかかっていたが、それでも、この喧騒に身を置くことで、自分の輪郭が少しずつ取り戻されていくような気がしていた。


「よ、新入りさん!昨日はよく眠れたか?」

「朝食ちゃんと食べたか?俺らが仕込んだサンドイッチ」


 話しかけてきたのは、年配の荷車職人と調理班のキャラバンの者達だ。ロアスとは初対面だが屈託のない笑顔を向けていた。

 ロアスは少し戸惑ったようにまばたきし、小さくうなずいた。


「ああ……」


 そんな姿を横で見ていたフィンはロアスの裾を引っ張り、精一杯背伸びをしてロアスに耳打ちをした。


「ロアスさん、おそらくですけど、彼らは昨日の夜の私たちを見て、心配してくれたんだと思います。こう言う時は『ありがとう』って感謝の言葉を言うんですよ」


 ロアスは一拍遅れながらも「あ……ありがとう」とぎこちなく答えると、通りかかった別の団員が笑いながら肩を叩いて持ち場に向かって去っていく。


 ロアスは少し驚いた顔で「これでいいのか」と言わんばかりの表情でフィンを見やる。ウェイシェムの一件で沈んでいたフィンも、そんな姿のロアスを見て、くすりと笑みがこぼれる。

 

「うん、バッチリ!今度は自分から感謝を伝えてみましょうね」


 親指を立ててみせるフィン。そんな姿にロアスはほんの僅かに口元を緩めた。


「おーい、ロアス! あっちに水があるらしい! 汲みに行こうぜ!」


 レオスが手を振り、ロアスに声をかける。

 キャラバンは、砂漠を行軍する際は、日中の日差しが1番強い時間帯に休憩を取る。その間、水汲みなどできる範囲の支度をする。

 ロアスは短く返事をして、肩を並べて歩き出した。


「ふふ、あなたたち、仲良しなんですねぇ」


 エレカが笑いながら後ろから追いかけてくる。その手には朝食で使用した鍋と野菜の袋。


「ちょうどいいわ。ついでに洗ってきてくれる?」


「仕方ねぇな……俺たち、便利屋か何かか?」


「あら、ここは皆が皆、労働を対価として互いに貢献しあっている謂わば小さな社会よ?――ってことでよろしくね。新米『便利屋さん』♪」


 レオスが苦笑し、ロアスは無表情のまま、心の奥にふっと何かが灯った気がした。


〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓


 昼下がりの陽光が、キャラバンの広場を柔らかく照らしていた。旅の一団は短い休憩をとっており、周囲には荷車を囲んで談笑する人々や、獣の手入れをする者たちの姿が見える。


 その一角で、ひときわ賑わいを見せる人だかりがあった。


「さあさあ、こっからここまでの薬瓶セット、銀貨七枚! おまけにこの解毒の粉もつけちゃいますわ! ね、そこのオジ様、お得でしょう?」


 ひときわ艶やかな声が響き、旅人たちの視線を一身に集めている。


 アテネだった。


 軽やかな身のこなしに、金の装飾が揺れ露出の多い服装。そして手際よく並べられた雑貨や薬草、布にくるまれた魔具フェルマの数々。その姿は、もはや高級商人さながらだ。


「そこの綺麗な奥様!この腕輪なんか凄いのよ。なんと満腹中枢を満たす″特質魔術″の魔具フェルマ。これをつければ、あら不思議、空腹が感じにくくなる! ……ダイエットしてるけどつい食べちゃうって人には超おすすめ!ただし、ここにある魔具フェルマはすべて一点物!他の人に買われてしまう前に!お早めに購入判断をしてくださいませ〜」


 興奮気味にアテナが腕輪を掲げると、周囲の女性旅人たちがざわつき、ひとりがためらいながら手を伸ばした。


「で、お値段は?」


「銀貨二十枚!」


「た、高い……!」


「でもあなた、それで一か月分の食料代が浮くとしたら? お得じゃない? むしろ損よ、買わないほうが!」


 やや強引ながらも説得力のある口調に、客がため息混じりに財布を開く。


 ――その様子を、少し離れたところでロアスが腕を組み、呆れたように眺めていた。


「……どうやって仕入れたんだ、あれ」


 小さく呟くと、横からマルバスが笑いながら言った。


「ああ、見たところ、街で魔具フェルマと知らずに売っている雑貨屋で安く買い取ったりしてるらしい。あの子、俺はよくわからんが、そういう価値を見抜く『特質魔術』が使えるらしく、かなりの目利きなんだ。魔具フェルマの価値や、使いどころの解説も心得てる。あとはあの薬瓶セットとか、前の街で銀貨1枚で言葉巧みに叩き買って店主を泣かせてたぞ。……普通に」


 マルバスはどこか呆れながらも感心して言った。


「ダラスが言ってたな。こういう人を守銭奴……と呼ぶのか」


 ロアスは人との会話の中で少しずつ、だが着実に物事を学んでいっていた……特に必要のなさそうなことも。


「いやまあ、儲け話に目がないだけで。人一倍金が好きってだけで。根っこはいい奴さ」


 そう言うマルバスの苦笑まじりの言葉に、ロアスは無表情のまま「金……」と呟く。


 しばらくして、アテネが商売を終えたのか、髪をかき上げながら誇らしげに近づいてきた。袋には銀貨がずっしり詰まっている。


「ふう……今回はかなり利益を上げましたわ♪私ってば、かなり商才があると思いません?」


「まあな。だが、あの腕輪……本当に効果あるのか?」


「あるに決まってますわ。私の”鑑定魔術″で検知してますもの。ただし――魔具フェルマにはリスクが付き物。そのリスクがなんなのかは具体的にはわかりませんわ。そこは自己責任ってやつですわね」


 ロアスは感心していた。

 そして、単純に疑問に思ったことを口にした。


「なぜ、そんなに金を稼ぐんだ?」


「決まってますわ。金があればそれを資本にさらに金を稼げます。そしてその金でまた、より大きな金を――無限連鎖ですわ」


「で、どうするんだ?」


 ロアスが純粋な気持ちで質問する。


「ロアスさん、私、今あなたにとても大事なことを言いますわよ?」


 ロアスは真剣な顔でゆっくり頷く。


「金さえあればこの世の中、大抵のことは″何でも″できますの」


 真面目に言い放つアテネ。


「……なるほど、そうなのか」


 そして、さらに続けるアテネ。


「そう。つまり、金があれば、ほぼ神ですわ」


「神……そうか」


 純粋に真に受けるロアス。


「そうですわ」


 アテネは自信満々に答える。


 その様子を見てどうしたもんかと頭をかくマルバス。


「あー、でもな。世の中金以外にも色々あるぞ!例えば、人生を豊かにするためには、生きがいや愛とかもあってだな――」


「いいえ。金ですわ」


 認識を正そうとするマルバスを、アテナは即答で否定した。


「結局、金とは……神、なのか……?」


 ロアスはしばらく金の価値について考えることになるのだが、それはまた別のお話。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたならいいねやフォロー、コメントをいただけると、とても励みになります。

皆様の応援が次のお話を書く力になりますので、よろしくお願いいたします。

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