第32話:ダラス講義・後半「魔術の種類と適齢年齢って?」
〜前回までのあらすじ〜
記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅に出る。
ウェイシェムの地にて激闘の末、黒幕ゾディを打ち破るが、その街の人間すべてが死に、歩く屍人となる悲惨な結果に。
命からがら脱出し、放浪していたところ、大規模なキャラバンに迎え入れられた。マルバスに指摘され、苦手だった人との交流を学ぶことになり――
空気を切り替えるように話を続けた。
「次は――魔術そのものについてだ」
彼は少し背筋を伸ばし、語調を改める。
「火・氷・風・土の四属性。これがいわゆる『四元素魔術』と呼ばれるものだ。ここまでは魔術学会でもだいたい研究が進んでいる。けど、これに“光”と“闇”を加えた“六属性魔術”となると、扱える魔術師は全体の一割にも満たない」
「『上級属性魔術』ってやつね」
エレカが目を開けてつぶやく。ダラスはうなずく。
「その通り。“光”と“闇”は特別な属性だ。そして、強力なぶん、制限がある」
「制限……?」
フィンが問い返す。ダラスの目がわずかに鋭くなる。
「“闇”を使えるようになると、“光”――つまり神聖魔術は二度と使えなくなる。逆もまた然り。信仰と深く繋がってる属性だからな」
彼は、真っ直ぐにフィンを見つめる。
「才能があるかないかだけじゃない。どう生きたいか、どんな力を選ぶか。魔術ってのは、そういう選択が問われる」
フィンは静かに頷いた。その目に、少しだけ覚悟のようなものが宿る。
その隣で、レオスがぽつりと漏らす。
「……もし、俺に素質があったら……俺は闇なんだろうな」
エレカは背もたれにもたれ、そっと目を閉じていた。まるで、かつての自分の選択を思い出しているようだった。
そのとき、フィンがふと思いついたように尋ねた。
「ダラスさんは……魔術師なんですよね? どの魔術を使えるんですか?」
少しの沈黙。ダラスは机の上に目を落とす。
その一瞬――何かを探るような視線。
答えるには少し長い“間”。
「……本来、魔術師は自分の手の内を晒すような真似はしねぇんだがな」
「あ、ごめんなさい。不用意に聞いてしまって――」
ダラスがフィンの言葉を遮った。
「いや、どうせキャラバンに同乗するんだ。少しくらい話したっていいだろ。俺は、土系統を中心とした魔術を扱う。ちなみに『上級属性魔術』は使えねぇ」
軽く肩をすくめる。その奥に何か、わずかな濁りがあった。
そして、彼はこれ以上深入りはさせまいと、次の話題へと切り替えた。
「と、ここまでは“通常魔術”の話だ。ついてこれてるか?」
皆が静かに頷くのを見届け、ダラスは続きを語り出す。
「さて、次に話すのは『特質魔術』についてだ。これはな……“通常魔術”に分類しきれなかった、完全に先天的な能力。生まれつき持つしかない、特殊な才能だ」
彼はやや声を潜める。
「魔術協会が“禁忌魔術”に指定してるものの多くが、この“特異魔術”に含まれる。精神干渉、魔物・精霊の使役、召喚、死霊術、時空操作、幻影術、因果干渉……一つ一つが、危険で、そして強力だ」
少し間を置いて、ダラスは補足するように続けた。
「……ただな、誤解するなよ。こういう魔術を使える魔術師自体は、実はそんなに珍しくもない。むしろ、一定数はどこの街にもいる。けど、さっきの“フェルマ”みたいに、例えば“空腹時に擬似的な満腹感を得られる”とか、その程度のもんが大半だ」
エレカが思わず笑う。
「……それ、便利っちゃ便利だけど、戦いには役に立たないわね」
「ま、そういうことだ」
ダラスも肩をすくめて苦笑した。
「“特質魔術”って聞くと、とんでもない力を想像しがちだが……実際は、地味なもんばかりだ。
けど……中には、世界の理を捻じ曲げるレベルの、桁外れな奴もいる。そういうのは、魔術協会の監視対象になったり、闇に潜ったり――まあ、ろくなことにならねぇ。出る杭は打たれるってことだな」
それを聞いたフィンが、少し考えるように口を開く。
「そういうのって……いつから学び始めるものなんですか?」
ダラスは「お、いい質問だな」と笑って答えた。
「理論的には、十四、五歳くらいで魔術訓練は始められる。だがこれには個人差もあって、身体と精神への負荷も考慮して、最近の魔術学校じゃ十六歳、つまり成人してからの修練が推奨されてる」
その話に、ネロが何かを思い出したように呟いた。
「あれ、もうかなり前のことだけど、なんか最年少魔術師が現れたって話題になったよな――」
「“神童”ってやつだな」
ダラスは頷きながら言葉を続ける。
「滅多にいないが、十四どころか十にも満たない歳で、膨大なマナを持つ子供が稀に現れる。そういう子は“神童”として扱われ、この国では――」
「聖杯教団に引き取られる」
エレカが静かに口を挟む。ダラスは「その通りだ」とうなずく。
「聖都で特別な訓練を受け、優遇される。……たしか十年くらい前だったか。若干八歳で“神童”と呼ばれた少年がいてな。聖都で話題になったもんだよ。今じゃ、教団のエリート精鋭軍団、聖杯騎士団に入って名を上げているらしいな」
フィンが、講義の余韻を感じながら呟いた。
「へぇ……私よりも年下でも、そんな風に魔術を扱える子がいるんですね……」
そして、少し間を置いてからまたぽつり。
「私も、今年で十四歳……魔術、使ってみたいな」
……そう口にしながらも、自分にそんな素質があるのか、不安は拭えなかった。
すると、その言葉にエレカが思わず言い聞かすように話しかける。
「あのねフィンちゃん、あなたは魔術を“使いすぎて”倒れたの。もうしばらくは使わないほうがいいわよ」
「えっ……?」
目をぱちくりさせて、フィンが首を傾げる。まるで初耳のような顔をしていた。
「私、魔術なんて学んだこと……」
フィンはそこまで言いかけて、何かを思い出したようにハッとした。
そして、うなだれる。
「そうだ……ウェイシェムで瘴気が充満して……みんな死んでしまって……それで……」
声が途中で詰まり、フィンの目から、ぽろりと涙がこぼれた。
「あらあらあら、大丈夫?」
そんな姿にエレカは急いでフィンの隣まで駆け寄った。我が子を慰めるように優しく肩に手を回す。
するとダラスが真剣な顔で口を挟んだ。
「……ロアス、お前さんたち、よかったらこれまでのことをちゃんと話してくれないか。何があったのか、順を追って確認したい」
ロアスはレオスと目を合わせ、静かに頷いた。
「……ああ。キャラバンに加わるまでの経緯を、俺の知る限りで話そう」
すると、診療所の扉がノックされた。
「皆さん。お食事の用意ができましたわよ――あら?」
扉を開けて顔をのぞかせたアテネが、室内の張りつめた空気に気づいて言葉を止めた。
「……なんだか、ただならぬ雰囲気ですわね」
ネロはしばしフィンを見つめ、それから静かに立ち上がった。
「アテネさん、悪いけど……キャラバンの皆には先に食事を進めてもらって。で、マルバスさん、呼んできてもらえるかな」
「団長を?」
「うん、多分だけど……この話は、団長も交えて聞いてもらった方がいい内容……だと思う」
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