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最強にして記憶喪失。だが神子様は蛮行を許さない!  作者: 死神丸 鍾兵
第三章 〜救いの旅団〜「キャラバン編」
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第32話:ダラス講義・後半「魔術の種類と適齢年齢って?」

〜前回までのあらすじ〜

 記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅に出る。

 ウェイシェムの地にて激闘の末、黒幕ゾディを打ち破るが、その街の人間すべてが死に、歩く屍人となる悲惨な結果に。

 命からがら脱出し、放浪していたところ、大規模なキャラバンに迎え入れられた。マルバスに指摘され、苦手だった人との交流を学ぶことになり――

 空気を切り替えるように話を続けた。


「次は――魔術そのものについてだ」


 彼は少し背筋を伸ばし、語調を改める。


「火・氷・風・土の四属性。これがいわゆる『四元素魔術』と呼ばれるものだ。ここまでは魔術学会でもだいたい研究が進んでいる。けど、これに“光”と“闇”を加えた“六属性魔術”となると、扱える魔術師は全体の一割にも満たない」


「『上級属性魔術』ってやつね」


 エレカが目を開けてつぶやく。ダラスはうなずく。


「その通り。“光”と“闇”は特別な属性だ。そして、強力なぶん、制限がある」


「制限……?」


 フィンが問い返す。ダラスの目がわずかに鋭くなる。


「“闇”を使えるようになると、“光”――つまり神聖魔術は二度と使えなくなる。逆もまた然り。信仰と深く繋がってる属性だからな」


 彼は、真っ直ぐにフィンを見つめる。


「才能があるかないかだけじゃない。どう生きたいか、どんな力を選ぶか。魔術ってのは、そういう選択が問われる」


 フィンは静かに頷いた。その目に、少しだけ覚悟のようなものが宿る。


 その隣で、レオスがぽつりと漏らす。


「……もし、俺に素質があったら……俺は闇なんだろうな」


 エレカは背もたれにもたれ、そっと目を閉じていた。まるで、かつての自分の選択を思い出しているようだった。


 そのとき、フィンがふと思いついたように尋ねた。


「ダラスさんは……魔術師なんですよね? どの魔術を使えるんですか?」


 少しの沈黙。ダラスは机の上に目を落とす。

 その一瞬――何かを探るような視線。

 答えるには少し長い“間”。


「……本来、魔術師は自分の手の内を晒すような真似はしねぇんだがな」


「あ、ごめんなさい。不用意に聞いてしまって――」


 ダラスがフィンの言葉を遮った。


「いや、どうせキャラバンに同乗するんだ。少しくらい話したっていいだろ。俺は、土系統を中心とした魔術を扱う。ちなみに『上級属性魔術』は使えねぇ」


 軽く肩をすくめる。その奥に何か、わずかな濁りがあった。

 そして、彼はこれ以上深入りはさせまいと、次の話題へと切り替えた。


「と、ここまでは“通常魔術”の話だ。ついてこれてるか?」


 皆が静かに頷くのを見届け、ダラスは続きを語り出す。


「さて、次に話すのは『特質魔術』についてだ。これはな……“通常魔術”に分類しきれなかった、完全に先天的な能力。生まれつき持つしかない、特殊な才能だ」


 彼はやや声を潜める。


「魔術協会が“禁忌魔術”に指定してるものの多くが、この“特異魔術”に含まれる。精神干渉、魔物・精霊の使役、召喚、死霊術、時空操作、幻影術、因果干渉……一つ一つが、危険で、そして強力だ」


 少し間を置いて、ダラスは補足するように続けた。


「……ただな、誤解するなよ。こういう魔術を使える魔術師自体は、実はそんなに珍しくもない。むしろ、一定数はどこの街にもいる。けど、さっきの“フェルマ”みたいに、例えば“空腹時に擬似的な満腹感を得られる”とか、その程度のもんが大半だ」


 エレカが思わず笑う。


「……それ、便利っちゃ便利だけど、戦いには役に立たないわね」


「ま、そういうことだ」


 ダラスも肩をすくめて苦笑した。


「“特質魔術”って聞くと、とんでもない力を想像しがちだが……実際は、地味なもんばかりだ。

 けど……中には、世界の理を捻じ曲げるレベルの、桁外れな奴もいる。そういうのは、魔術協会の監視対象になったり、闇に潜ったり――まあ、ろくなことにならねぇ。出る杭は打たれるってことだな」


 それを聞いたフィンが、少し考えるように口を開く。


「そういうのって……いつから学び始めるものなんですか?」


 ダラスは「お、いい質問だな」と笑って答えた。


「理論的には、十四、五歳くらいで魔術訓練は始められる。だがこれには個人差もあって、身体と精神への負荷も考慮して、最近の魔術学校じゃ十六歳、つまり成人してからの修練が推奨されてる」


 その話に、ネロが何かを思い出したように呟いた。


「あれ、もうかなり前のことだけど、なんか最年少魔術師が現れたって話題になったよな――」


「“神童”ってやつだな」


 ダラスは頷きながら言葉を続ける。


「滅多にいないが、十四どころか十にも満たない歳で、膨大なマナを持つ子供が稀に現れる。そういう子は“神童”として扱われ、この国では――」


聖杯教団カリクスセクトに引き取られる」


 エレカが静かに口を挟む。ダラスは「その通りだ」とうなずく。


「聖都で特別な訓練を受け、優遇される。……たしか十年くらい前だったか。若干八歳で“神童”と呼ばれた少年がいてな。聖都で話題になったもんだよ。今じゃ、教団のエリート精鋭軍団、聖杯騎士団カリクスオルドに入って名を上げているらしいな」


 フィンが、講義の余韻を感じながら呟いた。


「へぇ……私よりも年下でも、そんな風に魔術を扱える子がいるんですね……」


そして、少し間を置いてからまたぽつり。


「私も、今年で十四歳……魔術、使ってみたいな」


 ……そう口にしながらも、自分にそんな素質があるのか、不安は拭えなかった。

 すると、その言葉にエレカが思わず言い聞かすように話しかける。


「あのねフィンちゃん、あなたは魔術を“使いすぎて”倒れたの。もうしばらくは使わないほうがいいわよ」


「えっ……?」


 目をぱちくりさせて、フィンが首を傾げる。まるで初耳のような顔をしていた。


「私、魔術なんて学んだこと……」


 フィンはそこまで言いかけて、何かを思い出したようにハッとした。

そして、うなだれる。


「そうだ……ウェイシェムで瘴気が充満して……みんな死んでしまって……それで……」


 声が途中で詰まり、フィンの目から、ぽろりと涙がこぼれた。


「あらあらあら、大丈夫?」


 そんな姿にエレカは急いでフィンの隣まで駆け寄った。我が子を慰めるように優しく肩に手を回す。

 するとダラスが真剣な顔で口を挟んだ。


「……ロアス、お前さんたち、よかったらこれまでのことをちゃんと話してくれないか。何があったのか、順を追って確認したい」


 ロアスはレオスと目を合わせ、静かに頷いた。


「……ああ。キャラバンに加わるまでの経緯を、俺の知る限りで話そう」


 すると、診療所の扉がノックされた。


「皆さん。お食事の用意ができましたわよ――あら?」


 扉を開けて顔をのぞかせたアテネが、室内の張りつめた空気に気づいて言葉を止めた。


「……なんだか、ただならぬ雰囲気ですわね」


 ネロはしばしフィンを見つめ、それから静かに立ち上がった。


「アテネさん、悪いけど……キャラバンの皆には先に食事を進めてもらって。で、マルバスさん、呼んできてもらえるかな」


「団長を?」


「うん、多分だけど……この話は、団長も交えて聞いてもらった方がいい内容……だと思う」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたならいいねやフォロー、コメントをいただけると、とても励みになります。

皆様の応援が次のお話を書く力になりますので、よろしくお願いいたします。

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