表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強にして記憶喪失。だが神子様は蛮行を許さない!  作者: 死神丸 鍾兵
第三章 〜救いの旅団〜「キャラバン編」
34/85

第31話:ダラス講義・前半「魔術は誰でも使えるの?」

〜前回までのあらすじ〜

 記憶を失った最強の男ロアスは、フィン、レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅に出る。

 ウェイシェムの地にて激闘の末、黒幕ゾディを打ち破るが、その街の人間すべてが死に、歩く屍人となる悲惨な結果に。

 命からがら脱出し、放浪していたところ、大規模なキャラバンに迎え入れられた。マルバスに指摘され、苦手だった人との交流を学ぶことになり――

「魔術を使えるのは――全人口の一割程度だ」


 診療室の椅子に腰を下ろしたダラスが、腕を組んだまま淡々と口を開いた。


「ただし、魔術を行使する“素質”――つまり魔術因子を持つ人間は、全体の三割近くいる。けど、素質があっても魔術が使えるようになるには、修練が必要なんだ。だから、実際に魔術師と呼べるのは全体の一割程度ってわけだな」


「素質があるだけじゃ、ダメなんですね……」


 フィンがぽつりと呟いた。

 ダラスは頷くと、片手を顎に添え、説明を続けた。


「セラフィトラは、その“修練”の環境が整ってる国だ。聖杯教団が魔術教育を推進してて、王国や地方に莫大な援助金も出してる。だから、三割近くの人間が魔術を実用レベルで使える。世界でも珍しい土地だな」


「……私の村では誰も使ってなかったけど」


 フィンが首をかしげながら呟くと、レオスが口元を緩めて笑った。


「そりゃ、お前の村は辺境だったからな。教育の手が届いてなかっただけだ。素質があっても、学ぶ機会がなきゃ意味がない。ま、ウェイシェムだって、同じようなもんだがよ」


「ふーん……確かに言われてみればそうですね」


 フィンは腕を組んでうーんと唸り、しばらく考え込む。


「逆に、魔術を嫌ってる国もある。たとえば最近世間を騒がせてる国、イーラディア帝国だ」


 ダラスの声が低くなり、室内の空気がほんの少し張り詰める。


「あそこは魔術を異端としている。歴史的に見ても、“魔術師狩り”という過激な国策を敷いてた時期がある。魔術因子を持つ者を探し出して、根絶しようとまでしてた。今はそこまではしてないらしいが、魔術を育てる環境は整っていない。……宗教も禁じられてる国だしな。ホント変わった国だよ」


「実はよくわかってないんだけど、信仰と魔術ってなんか関わってるんだっけ?」


 ネロが片眉を上げて尋ねる。


「このあと説明するつもりだったが、光と闇の魔術に限っては特に深い関わりがある」


 ダラスは目を細め、指先で空中に“天秤”のような形を描く。


「光の魔術は、信仰の欠如がその力そのものの行使に影響する。だからこそ、神聖魔術は“信仰”が要件になってる。一方で闇は逆だ。神を信じる心があると、力が発動しない」


「だから、信心深いこの国で闇の魔術を公然と使うってことは、『ボク、不信仰者ですよ』って名乗るようなもんだ。闇を扱う魔術師――《黒魔術師》は、肩身の狭い思いをすることになるわけだな」


 ダラスは話を区切るように、椅子の背にもたれ直し、軽く息を吐いた。


「魔術因子の話に戻るが、ちょっと離れた国になるが“メッメドーサ魔導国”。あそこは人口こそ少ないが、魔術の始祖の地でもある。国民の八割が魔術因子を持ち、七割が魔術師だ」


「へえ……」


 フィンの目がまんまるくなる。


「さらに言うと、中立国でもあるから、国家間の往来も比較的自由だ。魔術を極めたいって一部の天才は、厳しい試験を乗り越えて、あの国の名門“エルセリオ魔術王立学院”に通うんだ。魔術師の憧れの場所ってやつだな」


 そう言いながら、ダラスはちらりとエレカの方を見た。


「で、ここのエレカさんが、そこの卒業生の一人ってわけだ」


 フィンは素直に「おーっ」と感嘆の声を上げ、ぱちぱちと拍手した。


「……寝ても覚めても魔術の日々、最高だったわ」


 エレカは陶然とした顔で髪をかき上げる。その様子に一同が苦笑した。


 その空気を破るように、レオスが手を挙げる。


「なあ、質問だがよ。俺は昔、魔術師のダチに変な紙で魔術因子がないって診断されたんだがよ、そう言う奴は魔術を使うことは絶対にできないのか?」


 ダラスは即座に、だが少し言葉を選ぶようにして答えた。


「変な紙…素因色紙そいんしきしのことか。まあ……そういう奴等のために、魔具フェルマっていうのがあるっちゃあるが――」


 そのとき、ロアスが珍しく口を開いた。


「知っている。魔術の心得が無い者でも、魔術のような力を行使できる……非常に稀少な魔術道具だ」


(と以前、フィンが話していた)と、心の中で付け加える。


 ダラスは意外そうにロアスを見る。


「……何も知らねぇクセに、なんでそんなマニアックな話は知ってんだよ。……まあ、合ってるけどな」


 彼は腕を組み直して続ける。


「フェルマは、古代の技術で作られた魔具の総称だ。今はもう技術そのものが失われていてな。作り方は一切不明。そのせいで、現存しているものはどれも超高価で、同時に危険でもある。いまだに魔術協会内でもいくつもの説が飛び交ってる」


 ロアスが少し顔をしかめる。


「解明されていないというのは……どこまで?」


 ダラスは肩をすくめる。


「言ったろ。生成方法も理論も、ほとんど不明なんだよ。それに――まあ、ここから先はだいぶ専門的な話になる。憶測の連続だ。本当に突っ込んで知りたきゃ……あの魔術オタクに聞け」


 その言葉に、エレカがぱあっと顔を輝かせ、勢いよく立ち上がる。


「フェルマね~。私は専門外だけど――」


 すぐにダラスが手を振って止める。


「あー、今じゃねぇ。勘弁してくれ。あんたが話し出すと俺のターンが永遠に来なくなる」


「えー、ダラスくん、意地悪ぅ。小一時間くらいで終わるのに……」


 拗ねたように口を尖らせ、エレカはしょんぼりと席に戻った。


 その様子を見ながらダラスは苦笑し、ぼそっと「いや、長ぇよ」と呟いた。


「フェルマって、どんな形なんだ?」


 レオスが興味ありげに尋ねると、ダラスはうなずいて説明を続けた。


「見た目はまちまちだ。指輪や腕輪、短剣、書物……骨董品や装飾品と変わらねぇのもある。魔術の心得がないと、それがフェルマだってことすらわかんねぇ」


「へぇー」


「だから商売に使う奴もいる。実用性のある魔術道具としてじゃなく、観賞用の“美術品”として扱ってな。――ま、守銭奴女みたいにな」


「守銭奴女?」


 フィンがきょとんと首をかしげる。すると、隣のエレカがそっと耳打ちしてくる。


「キャラバン内に、アテネさんっていう綺麗な商人さんがいるの。ダラスさん、その人のこと好きなんだけど、いつも照れ隠しであんな言い方するのよ~」


「おい。私語やめろ。気が散る」


 ダラスの声が鋭く飛ぶ。聞こえていたのか、ただの勘か。エレカはいたずらっぽく笑って「はーい」と応じた。フィンは少し顔を赤くしながら、ダラスをちらりと見つめる。


「ま、実物を見たけりゃその守銭奴アテネに頼んでみろ。フェルマ、何点か抱えてる。……見せてもらうのに金取られるかも知れねぇけどな」


 ダラスは肩をすくめた。


「え、そんなに持ってるのかよ。すげぇな!どんなの?」


 レオスが身を乗り出す。ダラスは少し笑って答えた。


「俺が知ってるのだと、歩いてるときに小石につまずかない靴。空腹時に擬似的な満腹感を得られる腕輪。あとは、対象のつま先を光らせる指輪……とか」


「つま先光らせてどうすんだよ……」


 レオスの目が一気に醒めていく。


「その腕輪……スタイル維持に良さそうなんだけど。私、使えないのよね。フェルマ」


 エレカが軽くため息をついた。


 するとネロが首をかしげる。


「え、フェルマって……使える人と使えない人がいるのか?」


 ダラスは真剣な声で頷いた。


「ああ。まだはっきりとは解明されちゃいねぇが、魔術因子を持ってる奴には反応しないって説が有力だ。ちなみに、俺も使えねぇ。アテネもな」


「え、でもそれじゃ、どうやって効果を確かめるの?」


「フェルマ専門の“鑑定士”ってのがいる。そいつらに頼むんだよ」


「試しに自分で使ってみるんじゃダメなんですか」


 フィンの無邪気な言葉に、ダラスは険しい表情を見せる。


「……甘く見るな。フェルマには必ず“条件”と“代償”がある。それを知らずに使えば……最悪、命を落とすことになる」


「……そ、それは、確かに怖いですね」


 フィンはゾクリと背筋を震わせた。


 一瞬、場が静まり返る。ロアスは思案するように、じっと床を見つめている。


 その沈黙を好機と見たのか、エレカが「待ってました」とばかりに口を開いた。


「“命を落とす”と言ってましたけど、それは少し語弊があるのよね。正確には、魔具フェルマが人の生命力を――」


「いや、そこの説明、今はいいだろ。横道に逸れたが、魔具フェルマの話はここまでだ」


 ダラスが軽く手を上げて制した。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたならいいねやフォロー、コメントをいただけると、とても励みになります。

皆様の応援が次のお話を書く力になりますので、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ