第24話:カエデちゃん、ウェイシェムにて★
〜前回までのあらすじ〜
記憶を失った最強の男・ロアス。
少女フィン、戦士レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅に出る。
辿り着いた先は、法なき犯罪都市ウェイシェム。
ロアスはこの街を支配する男――ゾディ・アークを打ち倒す。
しかし、ゾディの創り出した完全なる人造魔竜の死と共に、瘴気が噴き出す。
その瘴気は瞬く間に街を覆い――
あたしの名前は――
辻嵐 楓!
あ、この世界では、カエデ・ツジアラシって名乗ってるんだった!
どこから来たって? うーん、それを言うと、たいてい「病院を紹介しましょうか?」って顔されるから、今はナイショ。
とにかく、遠いからとこから来た世にも可憐なクノイチ!
剣術はイヤで、忍術が好きなの♪
今日も元気に旅の空♪
……なんだけど、ここウェイシェムって町、ちょーっと雰囲気がヤバ目な感じー★
昨日も人が襲われてたし、町の人たち、目が死んでるし。ぶっちゃけ、キモくて変な町。
「でもまぁ、お風呂は気持ちよかったし、今日はお布団で寝れるし……いっか♪」
あたしはごろりと宿の布団に転がって、のんびり手裏剣を磨いていた。
……そのときだった。
――ツン、と鼻をつく異臭。
「……ん? なにこれ? 納豆? クサヤ?」
煙? いや、霧? 部屋の隙間から、黒紫のもやが入り込んできた。
息が詰まる。目がチカチカする。喉がヒリついて――
「やばっ! 毒!?」
あたしは跳ね起きて、すぐさま手印を結ぶ。
「《忍法・解呪式浄毒結界》!!」
足元に複雑な術陣が浮かび、あたしの身体を淡い蒼光が包む。
肺が楽になる。視界がクリアになる。異界の忍術、ここに健在!
「ふーっ、助かった……って、のんきにしてる場合じゃない!」
窓の外を見ると――通りが真っ黒な瘴気で満たされていた。
建物から這い出してくる、人じゃない“なにか”。
血に濡れた手足。のろのろとした歩み。目が虚ろで、口だけが笑ってる。
「あの物怪は……あ、ゾンビだ……マジで出た……!」
宿の廊下からも、うめき声。足音。異臭。
あたしはすぐに跳躍。
階段を使わず、窓枠を蹴って二階から屋根へ飛び移る。
「《忍法・風遁・天翔脚》!」
術で風を蹴るように、屋根から屋根へ。瘴気の届かない高みをひた走る。
けど、それでも安心できない。上空にも煙が這ってきてる。
――このままじゃ、いずれ空気が持たない!
「くぅーっ、こんなときは、アレかぁ……」
一度立ち止まり、指で血を引く。印を結ぶ。
辻嵐忍法・奥義――
「《風遁奥義・天意無垢結界》!」
身体のまわりに風の泡が膨らむ。
内側だけ、外界と隔絶された空間になる術。
長くは保たないけど、これで呼吸は確保できる!
「よし……んじゃ、さっさとここ抜けよ!」
〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓
瓦礫と死体が転がる町――
その上空、あたしは屋根伝いに風のごとく跳ぶ。
でも、見える。
上からだと、全部見えちゃう。
この町で、何が起きてるのか。
人が倒れる。
膝をついて、喉を押さえ、呻いて、吐いて、そして……動かなくなる。
いや――それで終わらない。
動かなくなったと思った身体が、ぐしゃりと歪む音を立てて、
骨が逆に折れ曲がって、立ち上がる。
顔が裂ける。
目が笑って、血を流して、言葉にならないうめき声をあげる。
さっきまで笑ってたおばあちゃんが、
屋台でトウモロコシ焼いてたお兄さんが、
小さな子どもが――
みんな、黒い影になって、よろよろ歩き出す。
まるで、死んだまま、生きてるみたい。
「……っ」
喉の奥が締めつけられる。
忍びだし、血は見慣れてる。
でも……これは、なんか違う。
あたしの知ってる“死”じゃない。
これは――もっと、壊れてる。
それでも、走る。止まったら、やられる。
「ごめん……ごめんね……」
誰に言ってるかもわかんない。
でも、口からこぼれてた。
瓦礫と死体が転がる町を、高みから駆け抜ける。
遠くで、轟音と閃光――なにかすごい戦いが起きてる。
「誰か戦ってる……? あの方向って、確か……広場?」
あたしはふと立ち止まって見つめる。
誰が、何と戦ってるのかまでは分からないけど――
「……あの中に、兄さんいるのかなー……」
胸がぎゅっと締めつけられる。
ずっと探してる。信じてる。絶対にどこかにいるって。
――でも、今は近づけない。
兄さんと同等レベルの気配。
あたしじゃ、まだ足りない。今行ったら……確実に死ぬ。
「ごめん……でも、逃げるのも、生きるのも、あたしの任務だもんねっ!」
その場から風と共に跳躍する。
あたしは、まだやらなきゃいけないことがある。
だから、生きて、また会うために――
「――カエデちゃん、撤退しまっす!!」
夜空を駆け、瘴気の町を後にした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけたならいいねやフォロー、コメントをいただけると、とても励みになります。
皆様の応援が次のお話を書く力になりますので、よろしくお願いいたします




