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最強にして記憶喪失。だが神子様は蛮行を許さない!  作者: 死神丸 鍾兵
第二章 〜無法のスラム〜「ウェイシェム編」
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第19話:魔術の権威

〜前回までのあらすじ〜

記憶を失った最強の男・ロアス。

少女フィンと戦士レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅立つ。

辿り着いたのは、法なき犯罪都市ウェイシェム。

そこで出逢った妖しき女性ゼラにゾディ討伐の誘いを受けた。そして、遂にウェイシェムの支配者ゾディと衝突!ゾディの擁する異形の前にレオスが苦戦…そのままロアスがその力で屠ることとなり…!?

 ケルベクの残骸が、地に沈んだ。

 だが、戦いは終わっていない。


 瓦礫の影から姿を現したゾディ・アークは、静かにロアスを見据えていた。

 その瞳には、敵を前にしても揺るがぬ知性と、冷酷な確信が宿っている。


「……どうやら、玩具おもちゃではどうにもならないようだな」


 ゾディが右手を掲げる。

 指先から広がる魔法陣が、空間そのものを震わせる。光と共鳴するように、空気が熱を帯び始めた。


「我が魔術をもって、貴様を滅ぼしてやろう」


 その言葉と同時に、連続して魔術が放たれる。


『――《幻葬の迷界》』


 空間が歪み、景色が崩壊する。視覚、聴覚、触覚に干渉する複合幻術。

 常人なら、数秒で正気を失う領域だ。


『――《氷裂ひょうれつの牢檻》』


 足元から咲いた氷の花が、巨大な檻を形成し、ロアスの逃げ場を塞ぐ。


『――《焔穿えんせんの葬火》!』


 紅蓮の槍が幾重にも重なり、ロアスに突き刺さる。外套は損傷した箇所から燃え、灰となって舞う。


 ゾディ・アークが放つ魔術は、まさに正統にして極致。

 さらに、詠唱すら省略し、無詠唱の魔術が連発される。


 火炎の奔流が地を這い、ロアスの周囲を焼き尽くす。

 直後、氷の刃が飛来し、その腕を裂いた。

 炎と氷――相反する属性魔術が容赦なく、立て続けに叩き込まれる。


 それでも、ロアスは一歩も動かない。


 轟音と閃光の中、ぼろぼろになった黒衣の姿が、霞んでは現れる。


 ゾディは眉を寄せながらも、淡々と呟いた。

「……耐久に優れる肉体だな。だが、通じていないわけではない。自己再生能力があるわけでもない……いずれ崩れる」


 低く静かな声と共に、片手を振り上げ、三重の魔法陣が展開される。

 黒煙が渦巻き、視界すら飲み込むほどの闇の奔流が放たれる――


 その光景を、フィンは祈るような眼差しで見つめていた。

 肩が、ぴくりと震える。


「ゾディって……何者なの?」


 ぽつりと漏れたその問いに、隣で座っていたゼラが、口元を吊り上げた。


「……あら、あの男に興味を持ったのね、可愛い子ちゃん。意外と見る目はあるのかしら?」


 ゼラは戦場を横目に見ながら、ゆっくりと語り始める。


「彼はね、歴史あるメッメドーサ魔導国の名門――《エルセリオ魔術王立学院》の元・主席教授。

 この大陸で最も権威ある魔術教育機関、通称“塔”。そこで、すべての分野において頂点を極めた男よ。……まあ、頭が良すぎるのも、時に不幸だけれど」


「えっ……じゃあ、すごく……偉い人……?」


「偉かった、わね。でも、禁忌魔術に手を出した時点で、彼はすべてを失ったの。

 名声も、地位も、そして“人”としての心も。……いわゆる“高みに登りすぎて足を滑らせた”ってやつかしら」


 ゼラの瞳には、複雑な感情が揺れていた。


「彼は、“原初の理”に最も近づいた男。

 魔術とは何か、世界とは何か……その全てを暴こうとしたの。まるで、世界を覗き見することが自分の義務だとでも思ってるみたいにね」


「……そんなこと、できるんですか……?」


「ふふ、それをやっちゃうとね、神様も困っちゃうんじゃないかしら。もっとも、彼は神様に意見するつもりだったのかもしれないけど」


 ゼラは軽く肩をすくめた。


「私も“塔”で魔術を学んだ身だけれど、あそこは天才ばかり。私は落ちこぼれだったわ。

 でもね、私は彼の著書を読み漁って、禁忌魔術の魅力に囚われたのよ。

 今は禁書指定されちゃってるけどね……あのあたり、何かと都合の悪い真実が多すぎたのかしら?」


「禁忌魔術……ゼラさんとゾディさんは、同じ道を目指してるの?」


「ふふ、いいえ。私は“永遠の命”を宿す人型のペットに美を見出した。

 でも、彼は“最強の生命体”を求めている。

 ……思考も美学も、まるで違うのよ。私は趣味で狂ってるけど、彼は本気で世界を壊すつもりだから」


 ゼラは静かに息を吐く。


「私が“異端”だとしたら、彼は“異形”。

 狂ってるのに理性的。正しすぎて、すべてが歪んでる。

 ……それがゾディ・アーク。世界で最も危険な魔術師よ。まあ、自分を“理解されない天才”だと思ってるあたりが、いかにもって感じだけど」


 フィンはゼラの横顔を見た。

 その目には、恋慕と畏怖がないまぜになった色が浮かび、ゾディの背を見つめていた。


「マジかよ……ロアス、大丈夫か……?」


 肩で息をするレオスの声が、静かにこだまする。


(……これが、魔術か)

 焼け焦げた外套を払い、ロアスは拳を握り締めた。


「……そろそろ、高火力で終わらせるか」


 ゾディの呟きとともに、杖先が真紅に染まる。

 地鳴りが走り、大地が割れた。


『燃え滾るは地の臓腑、灼熱の脈動よ――』

『万象を呑み、万物を焼き、理すら溶かす紅蓮の泉となれ』


 裂け目から、灼熱の火柱が天を貫く。


『爆ぜろ……《焔泉爆バーン・ゲイザー》!』


 大地が噴き上がり、濁流のような溶岩混じりの火焔がロアスを呑み込まんと迫る。

 火柱は空を焼き、炎が竜のように舞い踊る。

 大地が焼け、空気が唸り、周囲の瓦礫が融け落ちていく。


 フィンは思わず目を覆った。

「……ロアス……!」


 ゼラさえも、その紅蓮の舌を見つめ、目を細めた。


「これが、かつて“塔”で最も恐れられた男の魔術……」


 ゾディの魔術の余熱がなお地を這っていた。

 爆心地に立つロアスの上半身は、すでに衣服が焼き尽くされ、裸身の肌には黒い焦げ跡が浮かぶ。

 そして、立ち上るのは――禍々しい黒い瘴気だった。


 ロアスはゆっくりと立ち上がる。

 焦げた肉体に痛みの色はない。ただ、煤けた腕を軽く払うように、無意味な仕草を見せた。


「……熱い」


 その声は、感情がこもっていない。

 まるで人間の声真似をしているかのような、空虚な響きだった。


 ゾディの目が鋭く細まる。

 確かに当たったはずだ。全身を焼き尽くすほどの一撃。だが――なぜ、生きている?


「……効いてない……のか?」


 答えはない。ロアスは黙ったまま、胸に手を当てた。


 焦げ跡の中心――そこから漆黒の瘴気が吹き出すように噴き上がる。


「……いいわぁ……」


 ゼラの声がわずかに震える。

 だがそれは恐怖ではなく、狂気じみた興奮だった。


「……ああ、ロアス……もっとあなたを見せてっ!」


 焦げた皮膚が、まるで煤のように剥がれ落ちていく。

 そして、ロアスは動いた。

 その脚が、音もなく地を蹴る。


 一瞬で間合いを詰め――拳を突き出す。


 ゾディの展開した防御結界が、まるで薄い氷のように砕け散った。

 拳はゾディの顔面を捕らえ、そのまま彼を地面へ叩き伏せる。


 土煙が爆ぜる。


 ロアスは拳を見下ろし、低く呟いた。


「……どうやら、この身体は焼くだけじゃケガはしないらしい」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたならいいねやフォロー、コメントをいただけると、とても励みになります。

皆様の応援が次のお話を書く力になりますので、よろしくお願いいたします


〈修正履歴〉

9/7 魔術詠唱は『』などのフォーマット統一と体裁を整えるための修正

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