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最強にして記憶喪失。だが神子様は蛮行を許さない!  作者: 死神丸 鍾兵
第二章 〜無法のスラム〜「ウェイシェム編」
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第16話:腐臭の中での問答

〜前回までのあらすじ〜

記憶を失った最強の男・ロアス。

少女フィンと戦士レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅立つ。

辿り着いたのは、法なき犯罪都市ウェイシェム。

そこで出逢った妖しき女性ゼラにゾディ討伐の誘いを受け…。

「屍人どもは“香り”に敏感。私のこの香水で少しは誤魔化せるけれど……あとは頑張ってね、坊や?」


 横目でレオスを見て、くすりと笑う。


「その屍人どもはお前の手先じゃねぇのか?」


「そう。この辺に放置されているのはゾディの実験の失敗作。私のお利口な子達とは違うわ」


「……ま、こっから先は俺に任せろ」


 レオスが背中の大剣に手をかけ、先頭に立った。


「ロアス、お前は下がってろ。あいつら相手に、毎回お前が出てたら意味ねえんだ。俺は――強くならなきゃなんねぇ」


 ロアスはそれ以上何も言わず、静かに頷く。

 その眼は、ただ前を見つめるレオスを――試すように見ていた。


 フィンが少し心配そうに後ろから小声で声をかける。


「……でも、無理しないで。レオス、あなただってまだ……」


「大丈夫だ。死にかけて強くなるのが、俺の流儀だ」


 その言葉に、ゼラが楽しげに目を細める。


「ふふ……いいわね。死んだら私の下で雇ってあげるから安心して逝ってね」


 奥の通路から、呻き声が響いてきた。


「グゥ……アア……グルルル……」


 屍人たちが、暗闇の中から這い出してくる。肉が腐ったまま形を保ち、腕の代わりに鉄管や骨を突き刺された個体もいた。


 レオスは一歩踏み出す。

 手にした大剣を、構える。


「……いいか、俺が全部やる。誰も手ぇ出すなよ」


 次の瞬間――レオスは駆けた。


 獣のようなスピードで屍人に接近し、その一体を真横から叩き伏せる。血飛沫が石壁を染め、後続の屍人たちが次々と唸り声を上げて突っ込んでくる。


「まとめて来やがれぇッ!」


 回転するような剣撃。

 数体を薙ぎ払い、内臓を撒き散らしながら崩れ落ちる。


「――数が多いな。だが、それだけだ」


 肩に傷を負い、足を掴まれ、首筋をかすめられても、レオスは止まらなかった。

 少しずつ、確かに“戦士”の動きに近づいていく。


 後方でそれを見ていたフィンが、胸を押さえて呟いた。


「……すごい。さっきまでより、ずっと速い」


 ロアスは黙って見つめていた。

 ゼラは、うっとりとした表情でささやく。


「うふふ……荒削りだけど、捨て身覚悟の戦い方ね。あなたたち、本当に愉しいわ」


 やがて、屍人たちがすべて沈黙し、血と腐臭が満ちた空間に、荒い息遣いだけが残った。


 レオスは剣を引きずるように戻りながら、ぼそりと漏らす。


「……ああ、クソ……まだまだだな。今ので、あのゾディとやり合えるわけがねえ」


 ロアスがレオスを見つめて言う。


「なら、もっと戦えばいい。ここはそういう場所だ」


 ゼラがぱちんと指を鳴らすと、壁際の隠し扉がゆっくりと開いた。


「ふふ……お通しするわ。次の層へ、どうぞ。そろそろ……本番よ」


 地下深く、黒鉄の扉が閉じると同時に、空気の密度が変わった。


 壁に刻まれた魔法陣が淡く脈動し、奥の玉座のような椅子に一人の男が座っている。

 薔薇色の髪、氷のように冷たい瞳。漆黒の衣を纏った男――ゾディ・アーク。


 彼は立ち上がることなく、彼らを一瞥した。

 そして、ゼラにだけ目を細める。


「……なるほど。やはりお前か。数日前、監視の魔法陣に映った“影”が……どうにも見覚えのある腰つきだった」


 ゼラはくすくすと笑った。


「あら、そんなに私の腰つき、忘れられなかったのかしら…。ならもっと歓迎してくれても良かったのに」


「そろそろ仕掛けてくる頃合いだとは思っていたが……まさか君が“正面から”来るとはな」


 ゼラ・フィアラスは扇子をくるりと回し、笑みを浮かべる。


「ふふふ…その方が″上手く″いくと思ったの」


「君は人間の中では珍しく利口な方だと思っていたのだがな」


 レオスが背中の大剣に手をかけ、ロアスが前へ出ようとする。だがその時――


「待って!」


 フィンが二人の前に立ち塞がった。


「戦うのは……本当に、もうやめて。話し合えないの? ゾディって人、あなたにも理由があるんでしょう?」


 ゾディは目を細める。フィンを見下ろすように、ゆっくりと椅子から立ち上がった。


「……ふむ。貴様が、“あの娘”か。なるほど、哀れな思考をしている……」


「話を聞いて。私たち、ただ暴れに来たんじゃない。ゾディさん……この街の人たちは皆苦しんでいるのは知ってる?あんな目に遭わせて、どうして――」


 その言葉に、ゾディの表情が初めて変わった。


 笑った。


 しかしそれは、軽蔑を含んだ、冷ややかな微笑だった。


「どうして、か。ああ……愚かな人間は、そうやって自分の行為を正当化する生き物だったな」


 彼は指を鳴らした。


 壁際の棺が音を立てて開き、中から繋ぎ合わされた屍人たちが這い出してくる。


「そうだな。この街の民も、貴様も、死ぬことに″理由″や“理屈”などない。それは、ただの事象であり、物事の結果だ」

 

「……悲しいよ。そんな風にしか人を見られないなんて……!」


 フィンの声が震えた。


「″苦しみ″や″死″という結果に対しての意味などはいくらでも後づけできる」


 ゾディはゆっくりと魔法陣を編み出す。


「例えば……“それ”は、この街を守るための“秩序”だとでも言えば納得するか? 私に逆らう者すべては実験材料となり、そして“歴史的大魔術”の礎となる」


「命って、ただ材料にしていいような……そんな軽いものじゃない!」


 ゾディは黙ってフィンを見下ろし、ゆっくりと口を開く。


「では、貴様のその“重い”命で、私が弄ぶ″死″から逃れてみせよ」


 目の前で、血の通わぬ者たちが呻きながら立ち上がる。

 ゾディはまるで慈しむように、彼らを見つめた。


「……もういいな?」


 レオスが、静かに前に出た。


 フィンが振り返る。


「レオス……やめて……お願い、まだ……!」


 だがその瞳に迷いはなかった。


「話す余地があるなら、もうとっくに終わってる。あんたの言葉は、誰にも届かねえよ」


「…………」


 フィンは唇を噛みしめた。

 震える拳を握っても、届かない相手がいる。

 どうしても、踏みにじられてしまう願いがある。


 ――それが、「現実」だった。


 レオスが大剣を構えた。


 屍人――つきはぎだらけの3mほどある肉塊は呻き声を上げながら距離を詰めてくる。


 ロアスがおもむろに言葉を発する。


「俺からも一つ問おう。お前はまるで自分が″人間″ではないような言い方をしている。お前は何者だ?」


 ゾディは笑みをこぼす。


「ああ、貴様…見た目は人間だが、その角、その気配、何か同類と誤解を与えてしまったかな?ただ、私は″愚かな人間″等の中に生まれ落ちた″高尚な人間″というだけの話だ」


 ゾディが、漆黒の指輪に触れる。


 周囲の魔法陣が、一斉に起動した。


「お前たちの死は、すべて解析しよう。何一つ、無駄にはしない……!」


 屍人たちが咆哮を上げ、一行に向かい走り始めた。


「俺がやる。ロアスは下がってな。こんな奴等、俺にとっちゃただの“通過儀礼”だ」


 ロアスは無言で頷く。


 ゼラが、まるで観客のように後ろで扇子を鳴らす。


「うふふ……さあ、楽しい楽しい“宴”の始まりよ」


 そして、レオスが床を大きく蹴り、一気に突き進んだ。

※8/7誤字修正


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