第11話:死者の舞踏会
〜前回までのあらすじ〜
記憶を失った最強の男・ロアス。
少女フィンと戦士レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅立つ。
辿り着いたのは、法なき犯罪都市ウェイシェム。
そして、レオスは過去自分虐げてきた暴虐の巨人・エレゴレラを打ち倒した後、謎の妖しき女性に招かれた…
「さぁ、一緒に!“死者の舞踏会”、楽しみましょう!」
ゼラの妖艶な声が響いた瞬間――
床下から、呻き声と重たい鉄の扉の軋む音が伝わってきた。空気が揺れ、室内に鈍い振動が走る。
フィンは息を呑み、無意識に一歩後ずさった。
鼻を突くのは血と腐臭、湿った土の匂い。それだけではない――死そのものの気配が、肌に重くまとわりつく。
カーテンの奥、壁の裂け目、床の開口部から、腐敗した肉の塊が這い出す。歪んだ手足、むき出しの牙。死者の群れがゆらりと立ち上がり、じわりとこちらに迫る。
「う、うそ……これ……全部、屍人……?」
フィンの声はかすれ、震えていた。屋敷の隅々から、長年潜んでいたかのような無数の死体が這い出してくる。
「おいおい……何体いるんだよ……」
レオスが低く唸り、背中の大剣を抜いた。視線は群れを泳ぎ、進路を探す。
「ざっと、百…いえ、それ以上かも……!」
フィンが呟く。ゼラは優雅にソファに腰を預け、魔眼を光らせる。舞台の幕開けを楽しむ観客のような微笑みだ。
「これが……“私の可愛い従順な僕達”。私の生き甲斐の一つ。本当はもう少し腐敗していない方が望ましいけれど、時間が経つと管理は難しくて……でもね、筋繊維の反応、禁忌呪素の浸透率――どれも素晴らしいの」
「ッ、生き甲斐!?こ、こんなのが……!」
フィンが震え声で叫ぶ。
「フィン、伏せろ!」
レオスが大剣を構えて突進する。
一振りごとに屍人の腕や頭が吹き飛び、倒れるたびに腐肉の匂いが空気を刺す。だが、斬る間にも群れは迫り、じわりと距離を詰めて肩に噛みつかれた。
「あ゛あ゛あ゛ー……!」
「チッ……かじってんじゃねぇよッ!!」
レオスは屍人の顔面を蹴飛ばし、左手の短剣で別の屍人の喉を突く。血肉が飛び散り、肩が裂ける。だが止まらない。
「俺は、ここで死ねねぇ……まだ何も終わってねぇ!」
必死の斬撃と蹴り。剥き出しの殺意が、彼の動きに鋭さと重さを与える。
周囲の空気までが、剣と肉の衝突で震えているかのようだ。
「レオスさん……!」
フィンが叫ぶ。レオスが前に出た瞬間――
場の空気が、まるで異質な金属が軋むように裂けた。
「……ッ!?」
異次元の響きが室内を満たし、ロアスが一歩前に出る。
空間が歪み、右腕から黒い影が滲み出し、闇がまとうように揺れ動く。
「な、何を……」
フィンの問いに誰も応えられない。現れたのは――漆黒の大鎌。
柄は二メートルを超え、人の身長を遥かに上回る異形の武器。刃は一メートルを超える湾曲長刃で、赤黒く濁った金属が鈍く脈動する。刃先はまるで血を吸い込むかのように蠢く。
空気が震え、命が逃げようとする。そこに在るだけで、死が支配する。
「……な、んだよ……それ……」
肩で息をするレオスが唾を飲み込む。
「ロアスさん……それ……」
フィンの目に恐怖と驚愕、微かな哀しみが浮かぶ。
ロアスは無言で大鎌を手に馴染ませ、軽く振った。
地が唸り、彼を掴んでいた屍人たちは弾け飛ぶ。刃が動くたび、周囲の空気が裂ける。
「この力……初めて見るはずなのに……なぜか、“わかる”」
ロアスの声は静かで、瞳にはわずかな戸惑いと確信の光。
「ふふふふふ、素敵。そう来なくっちゃ……!」
ゼラの魔眼が輝き、美しい笑みが獰猛なものに変わった。
「殺せ。踊れ。“死者の舞踏会”を、存分に愉しみなさい!!」
※8/27 拙い擬音を描写説明に修正
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