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最強にして記憶喪失。だが神子様は蛮行を許さない!  作者: 死神丸 鍾兵
第二章 〜無法のスラム〜「ウェイシェム編」
14/73

第11話:死者の舞踏会

〜前回までのあらすじ〜

記憶を失った最強の男・ロアス。

少女フィンと戦士レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅立つ。

辿り着いたのは、法なき犯罪都市ウェイシェム。

そして、レオスは過去自分虐げてきた暴虐の巨人・エレゴレラを打ち倒した後、謎の妖しき女性に招かれた…

「さぁ、一緒に!“死者の舞踏会”、楽しみましょう!」


 ゼラの妖艶な声が響いた瞬間――

 床下から、呻き声と重たい鉄の扉の軋む音が伝わってきた。空気が揺れ、室内に鈍い振動が走る。


 フィンは息を呑み、無意識に一歩後ずさった。

 鼻を突くのは血と腐臭、湿った土の匂い。それだけではない――死そのものの気配が、肌に重くまとわりつく。


 カーテンの奥、壁の裂け目、床の開口部から、腐敗した肉の塊が這い出す。歪んだ手足、むき出しの牙。死者の群れがゆらりと立ち上がり、じわりとこちらに迫る。


「う、うそ……これ……全部、屍人しびと……?」


 フィンの声はかすれ、震えていた。屋敷の隅々から、長年潜んでいたかのような無数の死体が這い出してくる。


「おいおい……何体いるんだよ……」


 レオスが低く唸り、背中の大剣を抜いた。視線は群れを泳ぎ、進路を探す。


「ざっと、百…いえ、それ以上かも……!」


 フィンが呟く。ゼラは優雅にソファに腰を預け、魔眼を光らせる。舞台の幕開けを楽しむ観客のような微笑みだ。


「これが……“私の可愛い従順なペット達”。私の生き甲斐の一つ。本当はもう少し腐敗していない方が望ましいけれど、時間が経つと管理は難しくて……でもね、筋繊維の反応、禁忌呪素の浸透率――どれも素晴らしいの」


「ッ、生き甲斐!?こ、こんなのが……!」


 フィンが震え声で叫ぶ。


「フィン、伏せろ!」


 レオスが大剣を構えて突進する。

 一振りごとに屍人の腕や頭が吹き飛び、倒れるたびに腐肉の匂いが空気を刺す。だが、斬る間にも群れは迫り、じわりと距離を詰めて肩に噛みつかれた。


「あ゛あ゛あ゛ー……!」


「チッ……かじってんじゃねぇよッ!!」


 レオスは屍人の顔面を蹴飛ばし、左手の短剣で別の屍人の喉を突く。血肉が飛び散り、肩が裂ける。だが止まらない。


「俺は、ここで死ねねぇ……まだ何も終わってねぇ!」


 必死の斬撃と蹴り。剥き出しの殺意が、彼の動きに鋭さと重さを与える。

 周囲の空気までが、剣と肉の衝突で震えているかのようだ。


「レオスさん……!」


 フィンが叫ぶ。レオスが前に出た瞬間――


 場の空気が、まるで異質な金属が軋むように裂けた。


「……ッ!?」


 異次元の響きが室内を満たし、ロアスが一歩前に出る。

 空間が歪み、右腕から黒い影が滲み出し、闇がまとうように揺れ動く。


「な、何を……」


 フィンの問いに誰も応えられない。現れたのは――漆黒の大鎌。

 柄は二メートルを超え、人の身長を遥かに上回る異形の武器。刃は一メートルを超える湾曲長刃で、赤黒く濁った金属が鈍く脈動する。刃先はまるで血を吸い込むかのように蠢く。


 空気が震え、命が逃げようとする。そこに在るだけで、死が支配する。


「……な、んだよ……それ……」


 肩で息をするレオスが唾を飲み込む。


「ロアスさん……それ……」


 フィンの目に恐怖と驚愕、微かな哀しみが浮かぶ。


 ロアスは無言で大鎌を手に馴染ませ、軽く振った。

 地が唸り、彼を掴んでいた屍人たちは弾け飛ぶ。刃が動くたび、周囲の空気が裂ける。


「この力……初めて見るはずなのに……なぜか、“わかる”」


 ロアスの声は静かで、瞳にはわずかな戸惑いと確信の光。


「ふふふふふ、素敵。そう来なくっちゃ……!」


 ゼラの魔眼が輝き、美しい笑みが獰猛なものに変わった。


「殺せ。踊れ。“死者の舞踏会”を、存分に愉しみなさい!!」

※8/27 拙い擬音を描写説明に修正


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