第8話:妖しき情報屋
〜前回までのあらすじ〜
記憶を失った最強の男・ロアス。
少女フィンと戦士レオスと共に、記憶の手がかりを求め旅立つ。
辿り着いたのは、法なき犯罪都市ウェイシェム。
そして、レオスは過去自分虐げてきた暴虐の巨人・エレゴレラを打ち倒した!そして…
土煙が晴れた。
その中心には、倒れ伏す巨体――エレゴレラ。
だが、死んではいなかった。
胸のあたりからは黒い血が流れ出しているが、その目には、なおも怒りの光が宿っている。
「……ガハッ……この俺に、たてつきやがって……!」
呻くように立ち上がろうとするが、膝が震え、また倒れる。
レオスは、その様子を冷ややかに見下ろしていた。
その背後には、ロアスとその後ろに隠れるように立つフィン。戦いの余韻に、誰もが息を呑んでいる。
「レオスゥ、お前やっちまったなぁ……俺は今やゾディ様の忠実な僕……この街の掟を破った報い、思い知るがいい……生きて帰れると思うな……!」
そう憎悪を吐き捨てると、エレゴレラはその巨体を引きずるようにして、裏路地へ逃げようとした。
「ゾディだと…!?ちょ、待ちやがれ…!」
レオスはトドメを刺そうと、大剣を握り直す。
だが、フィンがレオスの前に立ちふさがった。
「待ってください!レオスさん、お願いです!それ以上は辞めてください!」
レオスは迷いながらも止まる――。
――沈黙
エレゴレラはもう姿を消していた。
さらに沈黙
だが、その静寂を最初に破ったのは――人々の冷たい視線だった。
「……見たか、あれ……」
「ゾディ様に逆らったぞ、あいつ……」
「関わっちゃいけねぇ。殺される……」
街の通りに集まっていた見物人たちが、一斉にレオスたちを避けるように散っていく。
「どうして……あんなに怖がって……」
フィンはぽつりと呟く。
そして、さっきまで助けたはずの少女や倒れていた老人すらも、まるで汚れ物を見るような目で、一言も発せず、レオス等と目を合わせずに遠ざかった。
「……なんで……助けたのに……」
フィンが唇を噛む。
その声に、答える者はいない。
ただ、レオスは淡々と呟いた。
「しまったなぁ……この街の掟……“ゾディには逆らうな”。はは、まさか俺が侵しちまうことになるとはなぁ…」
レオスは力無くフィンとロアスを見つめる。
「わりぃ、これで奴らに目をつけられたってわけだ」
ロアスは無言で頷いた。
そして――その静寂の中、異質な気配を感じる。
「ふふ……見事な腕前だったわね」
振り返れば、そこにいたのは――一人の女。真紅の唇に、漆黒のドレス。紫髪のショートに前髪だけ長く垂れ、片目はその髪に覆われている。まるで夜そのものを纏うかのような、美しくも妖しい女。
「ゼラ・フィアラスよ。情報屋をやってるの」
女は優雅に一礼してみせる。
敵?味方?レオスとフィンはそんな思考を巡らせ、息を飲む。
「あなたたち、ちょっと……目立ちすぎよ。この街でゾディに逆らったら、命がいくつあっても足りないわ」
レオスが不機嫌そうに顔をしかめた。
「だったら見逃してくれ。厄介事はもうたくさんだ」
「そう言わずに――ふふ、可愛いわね。ねえ、匿ってあげる。私の屋敷、すぐ近くよ」
ゼラは人差し指で自分の唇をつつきながら、艶然と微笑む。
「タダってわけじゃないよな」
レオスが警戒を滲ませながら問うと、ゼラはくすっと笑った。
「そうね。情報を仕入れたいの。あなた達のこと聞かせてくれるだけでいいわ。もちろん、あなた達が欲しがってる情報があれば売ってあげる。悪いようにはしないわ。ね?」
一瞬、ロアスとレオスが視線を交わす。
その背後で、フィンがふらりとよろけた。
「フィン、大丈夫か?」
「……ちょっと、疲れただけ」
ロアスが支えると、ゼラが微笑む。
「そうでしょうね。か弱い少女が、あんなクソ豚の臭い″負の闘気″に当てられたんじゃ、無理もないわ。休む場所も設けてるの……さあ、行きましょう。追手が来る前に」
ロアスは黙って頷き、フィンを抱えついて行く。
(信用はしねぇが……、最悪こいつと俺がいれば何とかなるか…)
レオスは、訝しげながらも彼女の後に続いた。
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※7/22 フィンのセリフが誰かわかりづらい点があったので一文追加して改善