25
初夏の柔らかな風が学園の庭を吹き抜けていた。
ジルとアントニオは再び街の外れにある、魔法具の専門店へと向かっていた。
あの店は静かで古びた佇まいだが、中には様々な魔法具が所狭しと並び、魔法の気配が満ちている。
「前回の腕輪は効果があったが、まだ十分とは言えない」アントニオが静かに話す。
「王子の状況はさらに緊迫している。もっと強力な魔法解除の道具が必要だ」
ジルも頷く。
「チャームの魔法は複雑で強力。完全に解くにはより精密で高度な魔道具を使わなければ」
二人は店の扉を押し開け、中に足を踏み入れた。
店内は薄暗く、棚には古書や小瓶、輝く石や精巧な機械が並んでいる。
店主の老人がゆっくりと二人に近づいてきた。
「おや、またお越しだな。前回の腕輪は役に立ったか?」老人は穏やかに微笑む。
ジルは深く礼をしながら答えた。
「はい。ですが、チャームの魔法は根が深く、まだ完全ではありません。もっと強力な解除道具を探しています」
アントニオも加えた。
「王子や関係者の感情を混乱させる魔法です。精度と威力のある魔道具が必要です」
老人はうなずき、棚の奥へと手招きした。
「ならば、こちらを試してみるといい」
彼が取り出したのは細身の銀製の腕輪で、中央に小さな深青の宝石がはめ込まれている。
宝石は微かに輝き、まるで波打つように揺れていた。
「これは魔法解除に特化した腕輪だ。前回のものより強力で、チャームのような感情を揺さぶる魔法にも対抗できる」
ジルは慎重に腕輪を手に取った。
「使い方は?」
老人は説明を始める。
「装着者の魔力に反応し、チャームの魔法を薄めるだけでなく、時間と共に魔法の影響をほぼ消し去ることができる。ただし、強力な魔法ほど効果を感じるまでに時間がかかることがある」
アントニオは腕輪をじっと見つめながら言った。
「時間がかかるとはいえ、王子やクリスの心を徐々に解放できるなら、価値は大きい」
ジルは微笑みながら答えた。
「この腕輪があれば、チャームの魔法の混乱から抜け出す助けになるはず」
老人はさらに続けた。
「だが、この腕輪は魔力を消耗する。頻繁な使用や強力な魔法の影響下では、効果が薄れることもある。だから装着者は無理をせず、じっくりと魔法の解除を待つことが重要だ」
ジルは頷き、アントニオも真剣な表情で同意した。
「我々も慎重に状況を見守りながら使わせてもらう」
老人は最後に注意を添えた。
「また、効果は個人差がある。強い感情の起伏や魔法の抵抗力によっては解除に時間が必要だ。だが使い続ければ、必ず良い方向に向かうだろう」
ジルは感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
「ありがとうございます。これで、王子や関係者の助けになります」
アントニオも丁寧に礼を述べた。
「我々はこの国の未来を担う者だ。必ずや成功させよう」
老人は穏やかに笑い、二人を見送った。
「気をつけて帰るのだよ。また困ったことがあればいつでも来てくれ」
帰路の道すがら、ジルは腕輪をじっと見つめていた。
「これで、もう一歩進めるね」
アントニオは少し先を見据えながら言った。
「王子だけでなく、クリスも、チャームにかかった者たちも。混乱から解放される日が近い」
ジルはふと立ち止まり、ふわりと笑みを浮かべた。
「本当の気持ちを取り戻す日。それが来たら、みんなが自分の人生を選べる」
アントニオも穏やかに笑った。
「その日まで、我々は支え続ける」
春の風に乗って、二人の決意は静かに広がっていった。
新たな魔道具と共に、チャームの魔法という呪縛を解く戦いは続く。




