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春の陽光が学園の温室のガラスに柔らかく反射し、花々の香りが静かな空間を満たしていた。

ジルはアントニオと共に、濃緑の蔦が絡まる壁のそばで話をしていた。彼らはこの数日、王子ダレンと婚約者ジュリエット・スティルマンの不穏な空気について情報交換をしていた。


「王子の様子が以前とはまるで違うと聞いた。感情が不安定で、突然距離を置きたがるという話もある」アントニオが眉をひそめる。


「チャームの魔法の影響が薄れ始めたせいだと思う」ジルは静かに答えた。

「本来の感情が戻ってきて、混乱しているのね」


そこへ、遠くから女性の足音が軽やかに近づいてきた。白いドレスがふわりと揺れ、ジュリエット・スティルマンが現れた。彼女の表情には、普段の清楚な面影とは異なる深い影が落ちている。


「ジル様、アントニオ様」ジュリエットは少し息を整え、声を震わせながら呼びかけた。

「少しお話をさせていただけますか?」


二人は顔を見合わせ、頷いて彼女を促した。

「どうしたの、ジュリエット?」ジルが優しく尋ねる。


ジュリエットは肩を落とし、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。

「実は、王子が婚約破棄の意向を示しているのです」


その言葉は温室の空気を一瞬で重く変えた。

アントニオの瞳が鋭く光る。

「婚約破棄……それは王国にとって大きな衝撃だ」


ジルは額に皺を寄せた。

「どうしてそんなことに?」


ジュリエットは俯いたまま、声を絞り出す。

「王子は長らくチャームの魔法の影響下にありました。無意識に気持ちが動かされ、私への想いも、そうでない想いも混ざり合っていた。最近、その魔法の効果が薄れ始め、感情が混乱しているようなのです」


アントニオは腕を組み、厳しい表情で考え込む。

「つまり、王子は本当の心と向き合い始めたが、何を感じているのか自分でもわからなくなっているということか」


ジュリエットはわずかに頷いた。

「ええ。婚約破棄を口にしたのは、混乱の現れです。だが彼自身、何を望んでいるのか整理がついていません。私たちも対応を迷っている状況です」


ジルは深く息を吸い込み、決意を固めた。

「王子の心が揺らいでいる今、私たちができるのは、彼が自分の気持ちを見極められるよう支えることだけね」


アントニオは静かに視線をジルに向けた。

「君は…その支えとなるつもりか?」


ジルは一瞬躊躇したものの、強く頷いた。

「はい。王子は混乱しているけど、本心に気づくための時間が必要。私はその傍らにいたい」


ジュリエットは少しだけほっとした様子で微笑んだ。

「ありがとうございます。私も彼のために最善を尽くします」


その日の夕方、ジルとアントニオは学園の廊下を歩きながら話を続けた。

「婚約破棄は簡単な話じゃない。王国の政治にも大きく影響する。王子が自分の心と向き合うのを助けなければ」


アントニオは厳しい表情のまま言った。

「チャームの魔法を解くことは成功したが、その代償として生じる混乱を無視できない。王子の感情は今、宙ぶらりんだ」


ジルは頷き、眉間に深い皺を寄せた。

「彼が誰を本当に愛しているのか、まだ見えていない。婚約者のジュリエットに対する気持ちも、過去の気持ちも…全部が揺らいでいる」


アントニオはやや遠い目をしながら言葉を継いだ。

「この状況は容易に暴発する。王国の安定を乱しかねない。私たちは情報を集めつつ、王子の心を守る必要がある」


ジルは短く息を吐いた。

「王子自身が混乱の中でどう判断するか。私たちにできることは限られているけれど、彼の支えになることだけは確か」


二人は互いに決意を新たにし、歩みを進めた。


数日後、ジュリエットはミシュリーヌ夫人のもとを訪れていた。

夫人の部屋は豪華な調度品で彩られ、重厚なカーテンの隙間から暖かな光が差し込んでいる。


「ジュリエット、どうしたの?顔色が良くないわね」ミシュリーヌが心配そうに尋ねる。


ジュリエットは深く頭を下げ、話し始めた。

「王子が婚約破棄を口にしています。チャームの魔法の効果が薄れたことで、感情の整理がつかずにいるのです」


ミシュリーヌは険しい表情を浮かべた。

「それは由々しき事態ね……王国の将来にも関わること。夫も黙っていられないでしょう」


ジュリエットは声を震わせながらも決意を込めて言った。

「私たちは王子のためにも、この混乱を乗り越えなければなりません。ジル様とアントニオ様も協力してくれています」


ミシュリーヌは頷き、目を細めた。

「王子の心を守るために、できる限りのことをしましょう。私たちにはその力があるわ」


温室に戻ったジルは、夜空を見上げながら静かに呟いた。

「揺らぐ絆を繋ぎ止めるのは簡単じゃない。でも、彼を支え続けることが私の役目」


アントニオが隣に立ち、力強く言葉を添えた。

「共に戦おう、ジル。王子のために」


二人の目には決意の炎が燃えていた。

これからの道は険しい。だが、王国と王子の未来のために、彼らは一歩を踏み出したのだった。



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