表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/32

19

宮廷の夜は深く静まり返っていた。

豪華なシャンデリアの光が暖かく部屋を照らす中、王子ダレンは重い足取りで書斎へと向かっていた。

心は激しく乱れていた。これまで守ってきた未来の約束が、一瞬で揺らぎ始めているのを感じていたのだ。


「俺は、本当に……このままでいいのだろうか」


心の底から湧き上がる感情は、婚約者ジュリエットへの申し訳なさと、自分の中に芽生えた――クリスへの想いの狭間で苦しめられていた。


書斎の扉を開けると、ジュリエットはすでにそこにいた。

彼女は静かにダレンを見つめ、その瞳に心配の色が浮かんでいた。


「ダレン、何かあったの?あなたの顔がいつもと違う」


王子は深く息を吸い込み、言葉を選びながら口を開いた。


「ジュリエット……話さなければならないことがある。正直に言うと、俺は君との婚約を――」


その言葉は途切れた。胸が締めつけられ、声が震えた。

彼は自分の弱さを悟られまいと必死だったが、真実を伝えなければならなかった。


「婚約を破棄したいと思っている」


部屋の空気が一瞬で凍りついた。

ジュリエットは驚きの色を隠せず、瞳を見開いた。


「どうして……?私たちは共に未来を誓ったはずよ?」


ダレンは視線を落としながら答えた。


「俺自身も混乱している。クリスのことが頭から離れない。魔法の影響かもしれないが、それ以上に俺の心が動いてしまったんだ」


ジュリエットの表情は悲しみに沈んだが、毅然とした声で言った。


「あなたは王子よ。民の期待、国の未来……私たちの結婚はそのためのもの。感情だけで簡単に決められることではないはず」


ダレンは拳を握りしめ、何度も自問した。


「それでも、俺はこのまま嘘をついて生きることはできない。君のことを傷つけるかもしれないが、真実を伝えることが礼儀だと思う」


ジュリエットは一瞬沈黙した後、ゆっくりと頷いた。


「わかったわ……あなたがそこまで悩んでいるなら、私はあなたの決断を尊重する。でも、忘れないで。私たちは国の未来を背負っていることを」


ダレンは重い責任を改めて噛みしめた。

彼の胸には愛情と義務、そして逃れられない立場が絡み合い、複雑に絡まった糸を解くような決断が迫っていた。


翌朝、ジルは密かにダレンの変化を察知していた。

「王子様が自ら婚約を破棄しようとするとは……これが彼の本心なのだろうか」


ジルは思案しながら、彼の心の支えとなるべく動き始めていた。

彼女にとっても、王子の心の迷いは大きな転機を意味していたのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ