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夕暮れの宮廷庭園。薄紅色の光が石畳を照らし、風は穏やかに葉を揺らしていた。

王子ダレンは一人、ゆっくりと歩きながら頭の中で巡る思考と戦っていた。


「クリスが変わっている……あの少女は何かを掴み始めているのかもしれない」


彼は以前のような激しい魔法の引力は薄れたが、それでもなおクリスに向かう感情が消え去ったわけではなかった。

胸の中で複雑に絡み合う思いは、彼を深い葛藤へと誘う。


同じ頃、パンジョン伯爵家の若き当主スティーブもまた、身の回りの変化に気づいていた。

スティーブは、婚約者イサベラとの間にわずかながらも揺らぎを感じていたのだ。

イサベラの態度は最近どこかぎこちなく、かつての自信に満ちた表情が薄れていることを彼は察していた。


「彼女が何かに悩んでいるのは確かだが……自分にも原因があるのかもしれない」


スティーブはそんな疑念と不安を抱えながらも、表面にはそれを出さずに振る舞っていた。

彼にとって婚約は、家同士の約束であり、自身の将来の基盤でもある。


ミシュリーヌ夫人の部屋では、夫人自身が夫ユベールやアントニオとの社交の噂に頭を悩ませていた。

「夫が黙認しているからといって、このまま事態を放置していいのかしら」


夫人は己の立場と名誉を守るため、密かに動き始めている。

その動きの中で、彼女はジルに目をつけた。

「ジルなら、この状況を冷静に分析し、私の望む方向へ導いてくれるかもしれないわ」


ジルは、ミシュリーヌ夫人の依頼を受けて動きながら、クリスの変化にも心を砕いていた。

腕輪のことは彼女自身が深く関わっているものの、クリスには秘密にしている。

「彼女が自分の力に気づき、自分で立ち上がるのを見守るしかない」


ジルはそう自分に言い聞かせ、クリスの心に寄り添い続けていた。


そして、王子ダレンは再び庭園でクリスと出会った。

彼女の目には不安と希望が入り混じっていたが、以前よりは確かな強さが感じられた。


「クリス、変わったな。お前が自分で道を探そうとしているのを感じる」


クリスは驚きつつも、小さく頷いた。


「私もわからない。でも、何かが違う気がするの。これからどうすればいいか、自分で見つけたい」


ダレンの胸に暖かいものが流れ込み、彼は言葉を続けた。


「俺も、自分の心と向き合わなければならない。君に惹かれる気持ちを無視できない」


それぞれが抱える揺らぎと決意は、まだ交錯しながらも確かに動き始めていた。

王子、ジル、クリス、スティーブ、ミシュリーヌ――彼らの思惑が絡み合い、やがて新たな波紋を広げていく。


夕闇が深まる中、宮廷の空気は少しずつ変わり始めていた。

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