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薄曇りの午後、ジルはミシュリーヌ夫人とともに、控えめな表情のクリス・ビッジに向き合っていた。
クリスの鈍色の髪は少し乱れており、いつものような無邪気な笑顔は影を潜めている。
「クリス、これはあなたに必要なものです」
ジルは静かに“心鎮の腕輪”を差し出した。
銀の輝きが、彼女の手元で穏やかに光っている。
「これは、あなたの中にある魔法の力を少しだけ抑え、あなた自身を守る腕輪です」
クリスは腕輪を見つめ、少し戸惑いの色を浮かべた。
「わたし……そんな力があるなんて知らなかった」
ミシュリーヌ夫人が優しく声をかける。
「あなたは特別な存在。でも、その力は制御できなければ、周囲の人々を傷つけてしまうかもしれない。だからこそ、この腕輪が必要なの」
クリスは震える手で腕輪を受け取り、そっと自分の手首に嵌めた。
すると、まるで重たい何かが少しだけ軽くなったような感覚が彼女の中に広がった。
「……なんだか、心が静かになるみたい」
ジルは微笑みながら頷いた。
「これからは、あなたが自分の力と向き合う手助けになるはず」
数日が過ぎると、クリスの表情に少しずつ変化が見え始めた。
彼女の周囲の人々も、以前ほど奇妙な惹かれ方を感じなくなり、少しずつ穏やかな日常が戻りつつあった。
それでも、クリス自身はまだその力の重さを完全には理解できず、戸惑いの中で自分を探し続けている。
ジルは彼女の成長を見守りながら、新たな課題が待ち受けていることを感じていた。