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夜が深まった侯爵邸の書斎。
重厚な書棚に囲まれた空間に、緊張感が漂っていた。
ジルとアントニオが資料を広げていると、扉が静かに開き、ミシュリーヌ・ウィッター侯爵夫人が優雅に歩み入った。
「遅くに失礼します。ジル、アントニオ。お話を聞かせていただきたくて参りました」
夫人の瞳には決意の光が宿っている。
ただの好奇心ではない、家族を、家門を守る覚悟だった。
「ミシュリーヌ夫人、お疲れ様です。今まさにチャームの魔法について議論していたところです」
アントニオが落ち着いた声で応じる。
「私たちは、この魔法の正体と影響範囲を明確にし、対策を練る必要があります」
夫人は資料の一つを手に取り、指でなぞる。
「私の甥、スティーブの婚約が揺らぎ始めています。これは単なる若さゆえの感情の波でしょうか……?」
ジルは即座に答えた。
「否、それ以上のものです。チャームの魔法が無自覚のうちに介在している可能性が高い」
ミシュリーヌは顔を曇らせる。
「では、解決策は?」
アントニオが説明を始める。
「まずは、魔法の源である“発信者”を特定し、その力を制御もしくは抑制する方法を探すこと。特に、クリス・ビッジに関わる情報が重要です」
夫人は決然と頷いた。
「私も協力します。家の名誉を守るため、そして甥の未来のために」
ジルも強い意志を込めて言った。
「私たち三人で力を合わせて、真実に迫りましょう」
その言葉に三者の間に固い連帯感が生まれた。
闇に潜む魔法の影を打ち払うための、第一歩だった。