猫神様
あるとき猫神の社に一匹の子猫がやってきた。
子猫は猫神のお付きである猫又に案内されて猫神の元へとやってくると、挨拶もそこそこに猫神にこう申し出た。
「僕は人間を呪いたいんです。どうすれば僕は猫又になって人を呪えますか」
子猫の言葉に猫神である老猫は目を開く。そしてじっと子猫の姿を見た。
猫神の目には子猫がこれまで受けてきた仕打ちがありありと映っていた。両親は人の子のイタズラで命を落とした。自身ももう少しでそうなるところだったのだ。
人を呪いたくなるのも当然だった。
しばし思案した猫神はゆっくりと口を開く。
「ある人の家族がいる。そこに身を寄せて飼い猫になりなさい」
子猫は首を傾げる。なぜ猫又になりたいというのに飼い猫にならなければならないのだろうか?
しかし他ならぬ猫神の言うことである。子猫はペコリと頭を下げると猫又の案内で社を出て猫神の言う家族の元へと送られていった。
それから十数年後。
かつて子猫だった老猫は引き取られた家族に見守られて穏やかに寝息を立てながら、もう少しで自分の命が尽きようとしているのを自覚していた。
そういえば僕はどうしてこの家族に引き取られたんだっけ。
そんな思いが頭を掠めるが、しかしすぐにそんな考えは温かな思い出の溢れる夢によって押し出されて消えてしまった。
猫神の社では猫神と猫又が話をする。
「おや、あのときの坊やが死んだようだね」
「ここに戻ってこなかったということは、彼は猫又にはならなかったようですね」
二つの尾を振り猫又は嬉しそうにそう言った。
「猫又になるのなんて碌なものじゃありませんからね」
猫又の言葉を聞きながら猫神は静かに目を閉じ、独り言のように呟いた。
「恨みなぞ時の中に流してしまうのが一番だよ」
それが出来なかったために猫神のお付きを続ける猫又は、まったくですねと頷いた。
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