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END OF HOPE:21xx - Last Call  作者: 久遠-kuon-
Interlude III: 21xx - Red Eve
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Interlude III: 21xx - Red Eve 深蔵若虚 - 3

『……明日、異能者共が攻めてくる』


 院主の声が、再び重苦しいものに変わる。低く、深く、空間そのものが震えるかのような響き。先ほどまでの温かみは消え去り、そこには戦いを目前にした者の、静かな覚悟だけがあった。それは、まるで大地の底から響いてくる地鳴りのようだった。


『この皓絳に息づく、無辜の民の命が——再び、血の海に、死の闇に呑み込まれようとしている』


 ──一億の命。

 彼らの日常。笑い合う家族。市場を行き交う人々。食堂の店主の笑顔。すべてが、明日、失われるかもしれない。

 その重みが、漆黒の空間に凝縮され、跪く者たちの上にのしかかっていた。



『されど、我は知る……闇は必ず、光によって穿たれることを』


 声が、一段と強くなる。それは、命令であり、同時に願いでもあった。空間を震わせる低音が、聞く者の魂に直接語りかける。


『汝らの強き光をもって、この闇を照らし給え。

 汝らこそが、闇を切り拓く道標——一億の民を導く、希望の灯りとなれ』


 言葉の一つ一つが、脳裏に焼き付けられる。

 琴葉の深紅の瞳が、静かに燃え上がる。その瞳に、迷いの影はもうない。ポーランの紫色の瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。彼の大きな体が、微かに震えている——緊張ではなく、これから始まる戦いへの、静かなる覚悟の表れだった。



『一億の希望を背負いしは、汝らに他ならぬ』



 その瞬間、ルイの中で何かが変わった。

 一億。想像を絶する重み。数字では決して計り知れない、無数の命の重さ。しかし、それを背負うのが自分たちだという自覚が、全身に漲る。


 背筋が、自然と伸びる。膝をついたまま、しかしその姿勢は、臣下から戦士へと変わっていた。深緑の瞳に、強い光が宿る。



『さらなる秩序の保持を──未来をその手で掴み取ることを、ここに命ず』


 最後の一言は、まるで天から降り注ぐ雷のごとく響いた。空間全体が、その声に呼応して震える。黒い石が、かすかに共鳴しているかのようだった。その振動が、跪く者たちの全身を貫く。


『……退け』

「「ハッ! 御意にございます!!」」



 ポーランと琴葉の、ビリビリと、痺れるほどの呼応が部屋に響いた。その声は、漆黒の壁に反響し、幾重にも重なり合ってルイの全身を震わせる。二人の声が完璧に重なり合い、まるで一つの魂が二つの口から発せられたかのようだった。その響きには、絶対的な忠誠と、そして明日への不退転の覚悟が、ありったけ込められていた。

 その後ろで、ルイは静かに院主の影を見据えた。深緑の瞳に、畏敬と、そして確かな決意が宿っている。跪いたまま、しかしその背筋は鋼のように伸びていた。隣ではシアが、小さな体を震わせながらも、しっかりと前を向いていた。アメジストの瞳が、かすかに潤んでいるように見えた——しかし、それは涙ではなく、この場の重みに耐える者の、強い輝きだった。響哉は、片膝をついたまま、しかしその瞳は依然として闇を見据えている。銀灰色の瞳に、先ほどの鋭さはない。代わりに浮かんでいるのは、この現実を受け止めた者の、静かな覚悟だった。


 立ち上がる前に、その影がふと揺らぎ、消える。

 まるで、最初から存在しなかったかのように。ただ、黒い玉座だけが、闇の中に静かに佇んでいる。御簾が、かすかに揺れた——気のせいかもしれない。しかし、確かにそこにあった存在感が、今はもう何もない。虚空だけが、広がっている。


 空気の揺らぎがなくなる。先ほどまで空間を支配していた重圧が、すうっと引いていく。まるで、潮が引くように。呼吸が、ようやく楽になった。ルイは、深く息を吸い込んだ。肺に、冷たく澄んだ空気が満ちる。

 ポーランが、ゆっくりと立ち上がった。彼の巨体が、漆黒の床から浮かび上がる。紫色の瞳が、一瞬だけ玉座を見つめ、そして背を向けた。

 琴葉も、白いドレスの裾を整えながら、静かに立ち上がる。深紅の瞳は伏せられたままだったが、その表情には揺らぐことのない決意の光が宿っている。

 ルイも、シアも、立ち上がる。膝が、かすかに震えていた。長時間の跪きと、重圧によるものだ。シアの小さな手が、ルイの服の裾をそっと掴んだ。その温もりが、確かに伝わってくる。

 響哉も、ゆっくりと膝を伸ばした。紫檀色の髪を揺らし、何も言わずに、ただ前を見つめている。


 振り返らずに、部屋の外へ出る。院主を背にすることへの、かすかな畏れ。しかし、それは許されていることだと、誰もが理解していた。


 黒い扉が、再びギギギ……と音を立てて、彼らの背後で閉じられた。その重厚な音が、この一連の出来事が夢ではなかったことを、確かに告げていた。

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