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END OF HOPE:21xx - Last Call  作者: 久遠-kuon-
Interlude III: 21xx - Red Eve
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Interlude III: 21xx - Red Eve 一気呵成 - 2

 リンファの指示に従い、粒子の存在を確かに意識的に掴む──支配しようとして、集中する。目に集めた粒子の視界の中で、無数の光の粒が漂っている。その一つを、手で掴むイメージで──しかし、


「とろい!」


 今度は腕を打たれた。

 痛みが走る。思わず腕を押さえると、リンファの怒号が飛ぶ。


「そんなノロノロしてちゃ失敗するわよ!! 異能でも魔法でも、粒子は荒れ狂う波みたいに蠢くんだから!!」


 彼女の言葉が終わる前に、グッと脇腹辺りに痛みがさす。星溶粒子に干渉されているみたいだ。

 もう驚きはしない。これが彼女の指導方法なのだと受容した。痛みと共に教え込む。理不尽だが、確かに頭には刻まれる。


「視て、捕る!! もっとやる気出して!」


 リンファの杖が、床を突く。トントン、という乾いた音が部屋に響く。そのリズムが、ルイの心拍数を上げていく。心臓が早鐘を打ち、全身の毛穴が開くのを感じた。


 ルイは、必死に集中した。視界には、無数の粒子が存在する。先ほどまで静かに漂っていたそれらが、次の瞬間──

 リンファが軽く手を振ると、竜巻のようにそれが荒れ、巻き上がり始めた。建物がギシギシと悲鳴を上げる。天井からは細かな埃が舞い落ち、壁には微かな亀裂が走る。彼女の一振りで、室内の粒子全てが混沌と化した。

 荒れ狂う波のように、絶え間なく動き、流れ、ぶつかり合っている。それらはもはや単なる粒子ではなく、津波であり、制御不能な自然そのものだった。その奔流の中から、確かに狙った魔力粒子を掴み取るというのは、暴風雨の中で一枚の葉を捕まえるようなものだ。いや、それ以上に不可能に近い。


 意識を集中する。イメージがどうこういう問題ではない。「掴む」そう決めたら、もう支配の対象にできるように。

 場にある粒子を自分の異能による支配の対象として"捕る"。手を伸ばすのではなく、意識を広げる。自分の存在そのものを、この混沌の中に溶け込ませるように。


 呼吸が、深くなる。

 一呼吸──その瞬間に、ルイの意識が、空間全体を覆い尽くした。

 時間が止まったかのような感覚に襲われた。周囲の混沌が、一瞬のうちに速度を落とした。いや、落ち着いたのではない。支配下に置かれたのだ。この空間の全ての粒子が、一瞬にしてルイの異能の支配下に収まった。

 荒れ狂っていた粒子の海が静まり返る。まるで、嵐が一瞬で晴れた後の湖面のように。先ほどまで建物を震わせていた粒子の暴動は、完全に鎮圧されていた。


 ──できた。


「……できました」


 ルイが静かに言うと、リンファはわずかに口元を緩めた。その表情は、先ほどの嘲笑とはまったく異なる、かすかな満足げな笑みだった。


「やればできるじゃない。じゃあ精度を高めて。百発百中になるまで、ここから出さない。ミスした一回で人が死ぬのよ」


 彼女の言葉は厳しい。しかし、その瞳の奥には、確かな指導者の熱意が宿っていた。マゼンタの瞳が、ルイの成長を確かめるように、じっと彼を見つめている。

 ルイは深く息を吸い込み、再び粒子の世界に意識を集中させた。終わりは、まだ遠い。



 ──これが、課題が代わりながら、三時間続いた。

 全身から汗が吹き出し、息は絶え絶えだ。指先一つ動かすことさえ、億劫に感じられる。シャツは肌に張り付き、髪から滴る汗が床に小さな染みを作る。筋肉の一つ一つが悲鳴を上げ、思考するだけでも疲労を感じるほどだった。


 そこへ、一人の贄骸が現れた。無表情のまま、静かにリンファに近づく。


「リンファ様。急患です」

「なにっ!?」


 リンファの表情が一瞬で変わる。指導者の顔から、今度は医師の顔へ。彼女の本業は、そこだ。

 マゼンタの瞳に宿っていた熱意が、瞬時にして冷静な判断力へと切り替わる。彼女は杖を握りしめ、ルイに向かって叫んだ。


「今はここまで! また後で続きやるから、さっきの復習しておきなさい!」

「え……また……?」


 ルイの弱々しい声に、リンファは振り返りもせずに手を振った。その背中は、既に次の使命へと向かっていた。贄骸に引きずられるようにして、彼女は訓練場を後にする。その叫び声が、遠ざかっていく。


「まだ教えることあるんだから!! すぐ戻るから!!!!」

「リンファ様、患者が待っています」

「うるさいうるさい!! 行くわよ!!」



 声が完全に消えた後、部屋には静寂が訪れた。

 先ほどの喧騒が嘘のように、そこには穏やかな空気だけが流れている。ルイの荒い呼吸だけが、静かな部屋に響いていた。


 シュエンが、ルイの隣に座った。床に直接腰を下ろし、グレージュの髪を揺らしながら、ルイの横顔を覗き込む。


「おつかれさま〜。どうだった?」

「……死ぬかと思った」


 ルイの声は、掠れていた。しかし、その瞳には、確かな充実感が宿っている。確かに厳しかった。しかし、得たものは大きかった。三時間前にはできなかったことが、今はできるようになっている。その実感が、疲労の中にも確かな手応えとなって残っていた。


「昨日はびっくりさせちゃってゴメンね~? でも、見ての通り、ウチのお嬢は"強い"から」


 シュエンはそこで一度言葉を切り、


「うっかり足元掬われないように気を付けるんだぞ?」


 ルイに向けて綺麗にウィンクしてみせた。

 ルイは息を吐いて、肩を竦めた。疲れ切った体に、かすかな笑みが浮かぶ。


「……ああ。頑張るよ」


 その言葉は、掠れていたが、確かな決意を帯びていた。

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