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END OF HOPE:21xx - Last Call  作者: 久遠-kuon-
Interlude II: 21xx - Inhale Exhale
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Interlude II: 21xx - Inhale Exhale "憂影" - 1

「──はぁぁッ!」



 シアが手を目の前に掲げる。

 前方に蠢く数体の星骸。彼女の瞳が一瞬、深みを増した蒼色に強く輝くと、星骸たちの体内で何かがドクンと鈍く脈打つ。

 次の瞬間──内側から静かに、しかし確実に、その存在そのものが溶解し、崩壊していった。断末魔の叫びも、爆発の閃光もない。それは、有機物が自然に分解し、塵に還るかのような、非常に静かで、ほとんど物悲しいまでの大人しい最期だった。


 少し前までの、シアの煌めく氷結や光弾のような派手な魔法とは打って変わった、地味で抑制された雰囲気の一撃。だが、これこそが琴葉"先生"が厳しく叩き込んだ、この終末の荒野を生き残るための"次の段階"なのだ。


『派手で強い魔法もいい。美しさは、時に安らぎや興奮を与えてくれるから。でも、生き残るには必要ないわ。最小限の魔力消費で、気配を悟られず、痕跡を残さずに敵を殲滅する。そこに何もなかったのだと、世界そのものに思わせるくらいね』


 琴葉の冷たいが確かな言葉が、シアの中に根を下ろしていた。

 くるりと体の向きを変えたシアの瞳が、達成感と少しの興奮でキラキラと輝いている。彼女は一歩、二歩と軽やかに──腕組みをしながら見守っていた響哉の方へ向かい、全力でハイタッチをした。



「「いぇーいっ!」」


 この「目立たず、痕跡を残さず」という戦い方のアイデアの根幹を彼女に授けたのは、響哉だった。



 ──ある夜、訓練の後、響哉と共に火の傍らにいたとき。


『そうだ、無茶苦茶な魔法使いさん。あんまりキラキラ派手に魔法ぶちかましてると、闇夜で松明ぶん回してるのと同じだぜ? 俺みたいなのが近くにいたら、あんなもん、真っ先に狙われちまうよ』

『うぅっ……ごめんなさい……』

『もっと……なんつーか、『消える』感じでやれないのか? 俺のやることは変わんねえけど、お前が狙われねえ方が、こっちも助かるんだよ』


 そのやりとりがきっかけで、シアは響哉に試行錯誤を手伝ってもらうことにした。


『消す』という発想から始まった試行錯誤は、困難の連続だった。完全な消去魔法は可能ではあるが、周囲の魔力を激烈に消費し、行使するシア自身への負荷も大きく、琴葉が"合格"を出すことはなかった。「戦場でそんな無茶が通用すると思う?」という一言で、却下された。


 何かその代替案として、響哉が助言したのは、


『敵を消すんじゃねえ。跡を残さなければいいんだ。お前がいたこと、敵がいたこと、全部ごっちゃにしちまえ』


 その言葉から着想を得て、シアが考えついたのが、「荒野の地面に還す」という発想だった。星骸は元々、星の残滓と大地の鉱物が混ざり合った存在だ。ならば、その構造を内部から共鳴させ、振動で微細に砕き、周囲の無尽蔵の石片や砂礫と同化させてしまえばいい。多少形が残ってしまったとしても、無限に広がる荒野の一部にすぎない。目立たない。

 何度も失敗を重ね、魔力の振動制御に苦心した末、ついに彼女は核心をつかんだ。星骸の核の周りに集まった鉱物の内部に振動を伝え、分子結合に亀裂を走らせる。その途端、星骸はあのように、音も立てずに崩れ散ることを、シアは自らの目で確認した。


 派手さはなくなった。かつての氷結の華やかさ、光弾の閃きとは似ても似つかない、地味で陰鬱な魔法だ。

 だが、その確実性と、何よりも「生き延びるための合理性」という点では、以前とは比べ物にならないほど向上しているはずだった。音も光もなく敵を消し去るその一撃は、この終末の荒野で、最も価値のある力の形の一つだった。


 ──だが、この仕組みは琴葉先生には内緒だ。


(多分、本物の魔法じゃ、こんなことできる人はいないよね。"なんとなく"みたいな感覚は、全部通用しないんだから……)


 そっと胸に手を当て、ほんのりと罪悪感を覚えつつ、シアは琴葉が今回こそ「合格」と言ってくれることを期待し、そっと彼女の顔色を伺った。



 遠征から戻ってきて四日が経過していた。その間、ルイとシアは、昼の間は琴葉と響哉に伴われて外へ出て、実戦を通じた連携や戦術、生存技術を学び、夕方になると澄幽に戻り、珠桜からより理論的で精密な体術や異能の制御法を教わるという、密度の濃い日々を送っていた。


「……」


 シアだけでなく、ルイもまた、横にいる琴葉をそっと見ていた。

 あの朝、試刃院で目撃して以来、琴葉の表情にはずっと、薄いが確かな陰が付きまとっているように見えた。いつもの鋭い冷静さは表面を取り繕っているが、その瞳の奥には、何かを深く思いつめるような、重い逡巡の色が消えていない。

 ただ、彼女のことを気にかけすぎると、きっと鋭く突き返される。今は自分たちの訓練に集中すべき時だと分かっていているが──それでも、気がかりでならなかった。


「琴葉。シアの魔法、見てたか?」


 ふと、ルイは声をかけた。彼女は伏せがちだった瞼を開いた。深紅の瞳が、わずかに見開かれている。珍しい反応だ。

 彼女自身も、自分のぼんやりとした状態に戸惑っているのか、数度瞬きをして、まず声をかけたルイを見た。その後に、ようやく、少し緊張した面持ちで待つシアの方へ視線を移す。



「……ごめんなさい、別のことを考えて……いたわ」



 その瞬間に、琴葉の視線の先でシアが大きく目を見開いた。


「え……」


 驚愕。そして──


「だ、大丈夫!? 琴葉ちゃん、どうしたの、体調悪い!?」


 それがすぐに、純粋な心配へと変わった。思わず駆け寄り、琴葉の細い肩を両手で掴む。


「熱……!? いつからなのーっ!?」


 前髪を押し上げ、片手で額の温度を確かめようとするが──当然、元から死んでいる彼女の体温が、高いわけがない。今のシアの頭からは完全に消え去っているが、死んでいるのだから、当然、体調という概念は存在しない。常に、これ以上に悪くなることはない。

 琴葉は我慢できずシアを押しのけた。


「別に、なんでもないわ。ただ、少し……集中が途切れただけ。次は必ず、しっかり見ているから」


 だが、その押しのける力も、いつもの鋭く確かなものではなく、どこか虚ろで弱々しかった。



 ──ピリッ。



 その時、一瞬で駆け抜けた僅かな刺激のようなものを、ルイは感じ取った。


(星溶粒子の気配……まだ、星骸が潜んでいるのか)

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