第四十六話 氷雪を越えて鍛えられる刃 - 2
二回、三回。
戦闘を重ねるごとに、シアの集中力がわずかに揺らぐ瞬間が増えた。移動中、彼女の足取りが僅かに重くなったのをルイが見逃さず、琴葉に目配せした。琴葉はそれを一瞥するや、淡々と「昼食を取る」と宣言した。
ルイとシアが簡易食を口にし、壊れかけた柱にもたれて休む間、琴葉は結界の外に佇み、鋭い視線で周囲を警戒し続けた。獲物となる星骸を二人の訓練のためにあえて残しておくため、彼女自身はまだ狩りに出ない。
短い休憩を終え、午後の部が始まった。
三日目。
四日目。
五日目。
ルイとシアは、ひたすら戦い続けた。
星骸を倒し、息をつき、過酷な移動を行い、その先でまた別の星骸と対峙する。その繰り返し。
しかし、彼らの身体に新たな傷が刻まれることはなかった。致命傷が目前に迫るその瞬間、必ず深紅の閃光が介入し、攻撃を無力化する。その必要性に駆られる瞬間自体が、日を追うごとに確実に減っていった。
過度な疲労が蓄積することもなかった。限界に達する前に、どちらかが琴葉に「もう無理」と伝え、休息をとる。夜には、魔法による徹底的なケアと、結界に守られた深い睡眠が与えられる。
精神がすり減っていくこともなかった。むしろ、確実に強くなっているという手応えが、日に日に強まる自信へと変わっていった。恐怖が薄れ、代わりに戦術を考える余裕が生まれた。
ルイとシアの個々の戦闘能力はより洗練され、安定していく。
そして、二人の連携は──もはや言葉を交わす必要さえなく、互いの僅かな重心移動や視線の先だけで、相手の調子や次の一手が読み取れるほどに、驚くほどに研ぎ澄まされていった。
六日目の夜。
数メートル先が見通しにくい暴風雪が吹き荒れるが、三人はなんのその。
シアが琴葉に教わった保温の膜を全身に張り、寒さを完全に遮断していた。さらに、暴風に飛ばされないよう風除けの魔法も並行して常時発動。そして、視界を確保するため、風上方向に一定距離離れた場所に、巨大な氷の壁を立ち上げていた。その壁が吹きさらしを遮るため、三人のいる地点は不思議な静寂と視界が保たれていた。
シアが作り出したこの特設フィールドの中で、二人は今までで最も巨大な岩石型星骸を、息の合った連携で見事に倒した。崩れ落ちる巨体の前で、自然と拳が触れ合った。
「っし!」
「いぇーい!」
弾むような、疲労よりも達成感に満ちた声が、凍った空気に清々しく響く。
「……貴方たち、随分と余裕が出てきたようね」
「「うぐっ」」
背後から聞こえた琴葉の声に、二人はまるで条件反射のように背筋をぴんと伸ばした。緊張の名残りだ。
「何よその反応。猫でも被ったの?」
「い、いやぁ……なんでもなくて……」シアが照れくさそうに首をかく。
「褒めているのよ、今のは」琴葉が少しだけ口元を緩めて言った。
「今日はもうこれ以上の戦闘は行わないわ。お疲れ様」
彼女はそう言い、歩き出しながら言葉を続けた。
「……正直なところ、貴方たちのことを過小評価していたわ。ごめんなさい」
二人の足が止まる。琴葉が謝罪の言葉を口にするなど、思いもよらないことだった。
「何を教えても、ここまでの期間でこれほど育つことはないだろうと思っていた。根性も、才能も、どこかで限界が来ると。でも──」
琴葉は振り返り、深紅の瞳で二人を見た。その目には、冷徹な評価者のそれではなく、ある種の感慨のようなものが浮かんでいる。
「思っていた何倍も、貴方たちはこの『外』で生きることに執着して、それを成長へと変えてみせた。狂っているわ」
「オイ」
ルイが思わず声を上げる。
「本当よ」琴葉はきっぱりと言い放つが、その口調には苛立ちではなく、ある種の諦観めいた親しみがあった。「その狂気が、センスの良さと結びついているみたい。不幸中の幸いかもしれないね」
彼女は再び前を向き、歩き出す。
「今日までの期間は、澄幽に近い比較的安全な地域での掃討と、貴方たちの基礎鍛錬だった。明日からは、本格的な目的地に向けて移動を開始する。道中、今までよりも危険な地域を通る。気を引き締めなさい」
琴葉の言葉が終わり、一瞬の沈黙が流れた。
「認めて……」
「もらえた……!?」
ルイとシアが、遅れてその意味を咀嚼する。
「「よっしゃぁあ!!/やったぁああ!!」」
二人の歓声が、暴風雪をものともせず、荒野に大きく響き渡った。それは、初日には思いもよらなかった、確かな自信と誇りに満ちていた。琴葉はその声を背に受け、ほんのわずか、しかし確かに、唇の端を上げた。




