第八章 初めての殺人計画
ーーー時は過ぎ、水の停学が明けた。
「水ちゃんおかえり~!」
「おかえり~!」
久しぶりの昼間の音楽室、南と桜彩が出迎えてくれた。
南の後ろを見るとメトロノームが置いてあった棚に段ボールで作った神棚のようなものが置かれている。
その中央には御神体のごとく血の付いたブロックが置かれていた。
「た、ただいま、、!あ、あのそのブロックはなに、、?」
「水ちゃんが上級生をやっつけた記念のブロックだよ!」
南が笑顔でそう答える。
「南ちゃんはノンデリなところあるからね」
そう言って桜彩は苦笑いを浮かべる。
こうして、槍部の日常が戻って来た。
しかし、そんな日常は脆くも即座に打ち壊される事になる。
槍部の活動が終わり、水が一人で帰っていると一人の男子生徒に絡まれた。
「おい!結城ぃ!!!」
急に怒声を浴びせるこの男の名前は金子 望夫
コイツは水や南と同じ1-Aの生徒である。
実家が金持ちであり、防衛費と称して木島に毎月5万円を渡すことで西が丘内で地位を築いたクソ野郎である。
金子自体はさほど強くないが、木島の庇護の元に空手部に所属し、他の生徒からは厄介がられている。
「お前俺の女に手出しただろ!」
そう、コイツは水がブロックで頭をカチ割った神崎 杏奈の彼氏である。
「え、その、、な、なに?」
水は震えた声でそう答えた。
そこに金子は容赦なく殴り掛かる。
金子の拳が水のみぞおちを捉える。
「ーーーッ!!!?」
声に鳴らない声を上げて水はお腹を押さえてその場に崩れ落ちる。
「おら!こんなもんじゃ終わらねぇよ!」
金子は水の髪を掴んで顔を起こす。
そして、容赦なく顔面を殴る。
そんな地獄のような時間が数分続く。
水がその場に倒れ込み動かなくなると金子は声を掛ける。
「今日はこのくらいにしておいてやる、また明日楽しみにしておけよ!」
そう告げると金子は帰っていった。
「う、ぐぅ、、痛いよぉ、、」
水はしばらくその場で動くことが出来なかった。
ーーー翌日。
「水ちゃん!?その怪我どうしたの?」
朝学校へ登校すると南が心配そうに声をかけてきた。
昨日あった事を告げると南は悔しそうな顔をした。
そう、金子は金の力によって木金安全保障条約を木島と結んでいるため、彼のバックには木島がついているのだ。
西が丘の生徒の内では木島の存在は絶対であり、誰も逆らう事が出来ない。
南は恨めしそうに金子の席を睨みつける。
しかし、どうする事も出来ないのである。
そして、今日もまた金子による水への暴行は行われた。
そう、ずっと毎日毎日毎日暴行され続けた。
数日が経ったある日、水はボロボロになって音楽室の座席で俯いていた。
体中に絆創膏や包帯があり、かつての結城明のようにも見える。
「オアシス先輩!もう私こんな水ちゃん見ていられないよ!」
南が泣きながら桜彩に訴える。
桜彩は俯いており、前髪で顔が隠れて表情をうかがい知る事が出来ない。
しかし、ふと顔を上げると桜彩の顔は覚悟を宿した目をしていた。
そう、かつていじめで不登校になった文芸部の親友、結城明の事を思い出していたのだ。
あの頃は何もしてあげる事が出来なかった。
だからずっと後悔を抱えていたのだ。
しかし、今はもう違う。
「ねえ、その金子って子。殺そうよ」
桜彩は静かな口調ながらハッキリとそう言った。
「え?」
南と水は少し戸惑う。
ただ、それしかないと瞬時に悟り、頷いた。
これにて、槍部における金子殺害計画が練られる事となった。
「毒殺が良いと思う」
桜彩がハッキリとした殺害方法を淡々と述べる。
犯行に使う毒は夾竹桃、公園などに生えているため、入手が容易である。
そして、葉5~15枚程度で死に至る猛毒である。
西が丘高校では昼飯が給食であるため、水と南が給食当番である時に金子の給食に夾竹桃の葉っぱを混ぜるのだ。
丁度明日は給食にサラダが出るため、混入していてもバレる事はない。
早速本日槍部の活動と称して夾竹桃探しが始まった。
桜彩は事前に夾竹桃の画像を検索して2人に見せている。
そこで、3人が昇降口から外へ出るとある事に気付いた。
「うちにあるじゃん、夾竹桃」
南がそう言い放った。
学校を囲う塀の内側にびっしりと夾竹桃が植えられていた。
「あ、やったね」と水が声を漏らす。
「すごい、、」
そう言って桜彩は水や南がいる1-Aの前を見ている。
「1-Aの前に夾竹桃があるから例え警察が来ても風で夾竹桃の葉が混入したと思ってもらえる」
しかも金子の席は都合よく一番窓際である。
そして、当然の如く全ての窓が割られているため葉っぱも入り放題である。
「いや、すごいね!うちのクラスこれで死者出てないんだ」
南がそう言って笑った。
その日は夾竹桃の葉を15枚拾って犯行計画を練り、みんな笑顔で帰路についた。
いよいよ明日は決行日である。