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第四章 少女武装計画

水、南、桜彩の3人は荒川の河川敷に来ていた。

これは槍部の活動の一環である。

3人とも槍術の経験もないし、顧問の先生もいないのでゼロベースからのスタートだ。

そうなると当然槍を入手する事から始まるが当然店に槍などは置いていない。

そこで、河川敷で拾った枝を使ってお手製の槍を作ろうという訳だ。


「いや、先輩なんか全然枝とか落ちていないっすね」

「そうね、草むらばっかりそもそも木が少ないわね」

簡単に見つかると思っていた枝探しが難航する。

木の近くを探してみるも槍になり得そうな長い木の枝は落ちていない。

川の近くに降りてもテトラポットがあるだけで流木もない。


しかし、槍がない槍部など生徒会長の木島に真っ先に潰されてしまいそうなので3人は必至で探し回る。

徹底的に探しても見つかったのはいいとこ60㎝程度の枝であった。

辛うじて3本見つけたのでとりあえずはそれらを槍にするしかない。

3人は河川敷で拾った大きめの石を岩の上に叩きつける。

そう、打製石器である。


何個か割って良い感じの形になったものを拾う。

今度はそれを岩にゴリゴリと擦り付けて形を整える。

そう、磨製石器である。

さらに出来上がった磨製石器で木の皮を削って繊維を引き剝がしていく。

それを紐の代わりにして磨製石器を木の枝の先端に括り付ける。


そう、石槍の完成である。

到底使えなさそうな子供の玩具程度であるが、とりあえずはという事で3人は学校へ戻る。

女子高生3人が石槍を持っている異常な光景であり、普通なら通行人などにこそこそと笑われそうであるが彼女らは西が丘の制服を着ているために通行人全てが目を逸らす。

地元では西が丘の存在は絶対であり、ほとんどの人が関わり合いにならないように避けるのだ。


3人は部室である音楽室に着くと早速槍の稽古と称して手製の石槍を振ってみる。

水が振った一撃で先端の磨製石器が吹っ飛び、棚に置いてあったメトロノームを破壊する。

「あ、ごめんなさい」

南と桜彩は槍同士を打ち付けてみたが南の槍が折れて音楽家の肖像画の顔に命中する。

「あ、ごめんなさい」

素人が作った石槍では強度的に無理があるのだ。


3人は落胆しながら壊れたメトロノームや槍を片付けるために掃除用具入れを開ける。

「あ、これ使えそうじゃない?」

そう言って桜彩が手に取ったのは壊れた自在箒の柄である。

「確かに長さも強度も良さそう」

南がそう言って喜びの表情を浮かべる。

「でも一本しかないよ、、」

水はちょっと不安げな表情でそう言う。


しかし、各教室の掃除用具入れを探せば後2本くらい壊れた自在箒が眠っているかもしれない。

かくして槍部による槍探しが始まった。

西が丘では現在武活動中なので各教室の生徒たちは出払っている。

それでも教室の生徒と遭遇すれば他クラス不法侵入としてシバかれる可能性が高い。

そのため、比較的安全な一年生のクラスから回る事となった。

まずはノーリスクで入れる水と南が所属している1-Aである。


4月後半にして早くも全ての窓ガラスが割られていたが槍はなかった。

続いて1-Bへ行くも生徒たちによって引き剥がされたであろう黒板が無造作に床に転がっていた。

こわ、帰りたい。

そして、掃除用具入れを開けるも槍はなかった。

1-Cに行くと廊下にドアが転がっていた。

おそらく生徒たちの喧嘩によって吹き飛んだが、誰一人としてはめられる者がいなくてそのまま放置されているのだろう。


ドアがない分心理的に入りやすく、中身を覗いてみたが掃除用具入れ自体がなかった。

割れた窓の外を見ると掃除用具入れが転がっていた。

おそらく掃除をしたくない生徒たちが窓も開けずにそのまま掃除用具入れを外に放り投げたのであろう。

「お、捨ててあるなら中の箒壊れてなくても貰っちゃってもいいじゃん!」

そう言うと南は身軽に1階の窓から飛び降りて変形した掃除用具入れを開けた。


すると全ての箒が真っ二つにへし折られていた。

掃除をしたくない気持ちが強すぎてこわい。

結局その後1年生の教室をすべて回ったが槍に使えそうな壊れた自在箒はなかった。

仕方なく2階の2年生の教室を見る事になった。

不良校における上級生の階は非常に恐怖を感じるものであり、水と南は怯えていた。

仕方ないのでまずは桜彩のクラスである2-Bを桜彩が入って探した。


水と南は怖がりながら「人が来ないか見張っています」と言って廊下で見張りをしていた。

桜彩は自分のクラスに入るだけなので見張りは不要である。

単に2人は上級生の教室に入るのが怖くて入れずにいるだけである。

すると、桜彩が「一本あったよ」と言って先端が取れた自在箒を手にして教室から出てきた。

「やった!幸先良いですね」

南がそう返す。


しかし、その後2年の他の教室を回ったが1本もなかった。

「え、3年生の教室、私も行きたくないなぁ」

桜彩が苦笑いを浮かべる。

それでも仕方ないので3人は3階へ上がる。

すると、とんでもない光景が目の前に広がっていた。

廊下の一部に瓦礫が散乱しているのだ。


1-Cの吹き飛んだドアどころか壁ごと破壊されて廊下に散乱している。

そう、ここは3-C木島雄基のクラスである。

3人は恐る恐る近づいて教室内を廊下から覗いた。

黒板は当然の如く引き剥がされて二つ折りにされた状態で床に転がっている。

そして、机は1か所に集められてピラミッドのように積み重なっている。

そう、その頂点に君臨するのが木島の席だ。


他の生徒は机や椅子を使う事は許されない。

窓ガラスは一見割られていないように思えたが綺麗に跡形もなく破壊されているだけであった。

一枚どころか一欠けらも無事な窓ガラスは存在しない。

肝心な掃除用具入れはというと拳の形に数十か所凹んでおり、掃除用具入れ自体がひしゃげている。

そして、スプレーで「掃除は女々しい」と書かれている。

木島の筆跡だ。


3人はあまりの光景に30秒程度声を失いその場でフリーズしてしまう。

しかし、ここに長時間留まるリスクを思い出し我に返る。

急いで掃除用具入れを開けてみるとほとんどの箒が折れていたが1本だけ無事な自在箒があった。

壊れていなかったがどうせ掃除しないのならいいだろうという事でその箒を持ち出した。

音楽家に戻ると3人は緊張の糸が切れたようにその場にへたり込んだ。


かくして槍部の活動一日目は終了した。

死ぬほど疲弊したがこれはまだ序章にも満たないのである。

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