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第三章 暴力団事務所

水と南と桜彩は重い足取りで階段を登っていた。

目的地は生徒会室(ほぼ暴力団事務所)である。

新規部活である槍部を申請するために3人は勇気の限りを振り絞っていた。

地元で一番の不良校と言われる西が丘高校最強の不良、木島雄基が生徒会長を務める生徒会室は生徒が恐れて誰も寄り付かないほどである。


西が丘高校に武活動もとい武活動が少ないのはそのためであると言える。

「先輩、私怖いです、、」

水が桜彩の左腕に抱き着く、それに釣られて南も右腕に抱き着く。

「あはは、、」と桜彩は苦笑いを浮かべる。

私も超怖んですけどと脳内で叫ぶ。


しかし、時は残酷で生徒会室前に着いてしまう。

誰がノックするか決められずに醜い争いが始まる。

「ここは年上であるオアシス先輩お願いします」

南がそう言う。

「いや、部長である水ちゃんお願い」

桜彩がそう返答する。

「部長がダメな時の副部長です。南ちゃんお願いします」

そう水が答える。


そう、みんな死ぬほどノックしたくないのである。

誰もノックできずに生徒会室のドアの前で怯えていると後ろから突然声をかけられた。

「何だお前ら?生徒会室に何か用か?」

声の主は片手に度数の高い韓国産の酒瓶を持った生徒会長、木島雄基であった。

3人は死ぬほど驚き一同に「ひゃい!?」という裏声で返事をした。

そのまま木島に連れられ生徒会室に入る事となった。


生徒会室は見るからに異質な空間であった。

正面には職員室からパクってきたであろうアルミ机とキャスター付きの椅子があり、そこに木島が座る。

木島の後ろには生徒斗会と達筆で書かれたものが額に飾られている。

これは木島が書道教師を脅して無理やり書かせたものだ。

部屋の両サイドには木島の手下であろう学ランを着た男たちが仁王立ちでズラっと並んでいる。


3人は中央のソファに腰掛けるように言われた。

さながら暴力団事務所に呼び出された堅気の気分である。

木島が酒をぐいっと一気に飲み干すと「で、何の用だ?」と問いかける。

3人は怯えつつも「新規部活の申請に来ましたという」

それに対して木島は取り巻きの男たちに顎で合図を送る。


すると、正面のテーブルに武活動の新規立ち上げ申請書が出される。

「書け」

木島は一言だけ口にし、アルミ机の上にドサと組んだ両足を乗せる。

3人は音にビビりつつも震えた手で一人ひとり名前を書いていく。

活動日に丸をする欄があったが事前に決めていなかったために目配せをして部長の水が書く事となった。

武活動紹介ポスターを思い出して他の部活と同じ月火木金に丸をした。

書き終わると取り巻きの男無言で用紙を取り上げ、木島に差し出す。

やだ、こわい!帰りたい!と3人は同じ事を脳内で叫んでいた。


「槍部か、、流派はなんだ?」

りゅう、、は、、、?

武道をほぼ知らない水と南は木島にそう訊かれて頭が真っ白になった。

そこに桜彩が勇気を振り絞って返答した。

「か、家伝です」

「ほう、家伝か」と木島は納得したような反応を示した。


その直後、机を思いっきり叩く音が響き渡る。

3人はあまりの怖さに体がビクッと跳ね上がる。

しかし、単に木島が承認のハンコを押した音であった。

「部屋は音楽室が空いているからそこを使え」

なんでも木島が一年生の時に片耳が聞こえない音楽教師がいたそうだが、その教師は素行の悪い木島に再三注意を行っていた。


それに逆切れした木島が耳に思いっきりフックを食らわせてもう片方の耳も失聴させてしまい、それで音楽教師は退職して今は音楽室は使われていないそうだ。

そんな話を木島は笑いながら「音楽教師をベートーヴェンにしてやったぜ」と武勇伝的に語る。

一切笑えない話だが、笑わないとシバかれそうなので3人は苦笑いを浮かべる。

木島の取り巻きの男たちが音楽室のカギを探すが、なかなか見つからないらしく3人は1分1秒が永遠のように感じる地獄のような時間を送る。


そこで、酒を飲んで上機嫌になっている木島が善意で3人に飲み物を渡す。

なんか見たこともない缶ジュースのようなものが3人の前に置かれる。

パッケージには冷やし飴と書かれている。

飲まないとシバかれそうなので3人は「いただきます」と言って口を付ける。

すると、3人の顔色は見る見るうちに青ざめる。


この飲み物ゲロ不味い。

冷やし飴とは関西圏で夏の定番ともされる人気の飲み物であるが、関東民の舌には合わず、カルト飲料と言われるほどのものである。

東京生まれ東京育ちの3人にとっては体が拒絶してなかなか飲み込む事が出来ないくらいに不味く感じるのである。

ちなみに木島は祖父が大阪におり、子供の頃から冷やし飴を愛飲しているため好物である。

「どうだ、美味いだろ?」


地獄のような問いが木島の口から放たれる。

お世辞にも美味しいとは言えないが口が裂けても不味いなどと言ったらシバかれそうな空気感である。

なんなら木島の取り巻きも含めて壮絶なリンチをされそうである。

3人は吐き気をこらえながら「あ、美味しいです」と答える。

それを聞いて木島は上機嫌になり、自身の武勇伝をさらに語り始める。


動物園のゾウガメにボーリングの玉ほどの石を投げつけて甲羅を破壊して殺した話、学校のコンクリート塀を飛び蹴りで破壊した話、ヤクザの車のサイドミラーを正拳突きで割った話。

怖い武勇伝を聞きながら息を止めながら冷やし飴を飲むという地獄のような時間が続く。

実際には5分程度であるが彼女たちの体感時間は1時間にも達していた。

すると、取り巻きの男が「木島さん音楽室のカギありました」と言い、テーブルの上に置く。


「お、そうか!じゃあカギはお前らにやる。行っていいぞ」と木島は言う。

3人は安堵したのと同時にテーブルに置かれた冷やし飴がまだ半分以上残っている事にビビる。

流石に残して帰ったらシバかれそうなので息を止めて無理して一気飲みをしてみせた。

「ありがとうございました」と3人は口にして生徒会室を後にした。


そのまま生徒会室からある程度離れると「死ぬかと思った」と一同に口に出した。

3人ともかなり青ざめて吐きそうになっている。

そう、関東民にとって冷やし飴は往々にして劇物になり得るのだ。

しかし、フラフラになりながらも音楽室に着くと安堵と歓喜の空気に包まれた。

「やったぁ!部活と部室ゲットぉぉぉ!」と南が叫ぶ。

それに釣られて水と桜彩はハイタッチをする。


そう、3人は西が丘という名の砂漠にオアシスを見つける事が出来たのである。

しかし、そんな喜びも束の間の出来事であるという事を3人はまだ知らない。

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