サマラ編 9
ジョーの背中について歩いた。
ジャングルのような場所。
草木で、道がない。
「毒虫に刺されないように」
って、言われても。
キャッ!!
黄色と黒のマダラ虫が飛んで来た。
洞窟の入口?
ジョーは恐れる様子もなく入っていった。
岩の隙間から日か差し込んでいる。
薄暗い。
気がおかしくなりそう。
あれは!!
大きく開いた口。出口? とても明るい。
走り出した。
「危ない!!」
と、ジョーの声。
遅かった。
出口の下は絶壁。
ブレーキが間に合わない。
わっ!!
足を滑らせた。
私の手を掴むジョーの手。
危機一髪、ジョーに助けられた。
さらに奥へ進む。
「この先だから」
足が震えている。
ゆっくり歩いた。
突き当りは部屋になっていた。
壁から、天井からも日光か差し込む。
テーブルに三角水晶。自然の光を三角水晶が吸収し、七色に屈折させて部屋中に放出している。
「ようこそ」
「カナートだ」
仮面はつけていないが、神秘的な衣装、独特の髪型。
「お待ちしておりました」
霊媒師とか占い師とか言っていたけど、私が訪れることを予知していたのか?
「カナートの前に座って」
ジョーに背中を押された。
「でも……」
「命をとるわけではありません。どうぞ安心して」
カナートの前に座った。
冷たい空気……冷気を感じる。
なんか、水晶に魂を吸い取らせそう。
カナートは、私の運勢を占うかのように三角水晶を覗き込む。
「どう?」
ジョーはなにを知りたがっているのだろう?
「うむ、たぶんこの方でしょう」
この方? どういう?
カナートは立ち上がると、部屋の隅に置いてある棺のような箱を開けた。
不気味……。
私も立ち上がった。
「これを」
それは……。
「奏でてもらえますか?」
カナートが手にしているのはバイオリンだった。
私が? と思ったけど、すでにバイオリンは私の手に渡っている。
不思議、奏でてみたい、そんな欲求が生まれた。
「ひいてみて」
ジョーが力強い視線を送ってきた。
音がしている。
耳元で、バイオリンの音色が遊戯しているよう。
奏でているのは私。
条件反射のように私の手は、バイオリンを操っていた。
仮面の力? わからない。
記憶のどこかに、奏者としての私がいる気がする。
「ジョー、確信したわ」
カナートの言葉に、ジョーは『うん』と言った。
私は無心でバイオリンを奏でる。まるで仮面が脳に信号を送っているような感覚。
記憶が蘇って、消える。
かつて……私の前世は……バイオリニストだったとでもいうの?
村に戻る途中だった。
謎だらけ。謎が多い。多すぎる。
空はこれほど青いのに、私の中で灰色の雲が流れていく。
「詳しいことは、その内にわかるから」
仮面の男、ジョーはそう言ったけど。どこまで信じていいのか?
分かれ道。
「寄り道していこうか」
「え?」
ジョーは私の手を握った。
「こっちへ」
「ちょっと」
草をかき分けた。
「ちょっと、どこへ連れていくの?」
ジョーの口元は笑っていた。
私はジョーの手を振り払った。
「いい加減にして……誘拐されて、不気味な洞窟、訳が分からない」
「必ず時間が解決してくれる。その前に」
と、ジョーは大きな葉っぱをかき分けた。
光?
わぁ~
これって!!
思わずため息。
青いサンゴ礁。
コバルトブルーの海だった。
「いこう」
「待って」
走るジョーを追いかけた。
白い砂浜に立った。
「この島には、こんな場所がいくつもあるんだ」
ジョーは靴を脱いだ。
私も……。
裸足で歩く。
気持ちいい。
ジョーは足元に波を受けている。
「こっちへ」
海につかるのは……。
近くまで寄った。
ピシャッ
ちょとおおと……。
海水をかけられた。
さらに、ジョーは手で海水をすくうと、私に……。
「やったわねぇ」
私も海に入り、ジョーに海水をかけた。
水のかけあい。子供のように、無邪気な自分がいた。
砂浜に座った。
久しぶりに楽しんだ。
「綺麗な海」
キラキラした太陽の下。
私は手で砂を掴んで、掌にのせた。指先から砂が落ちていく。
「夕日もとても綺麗なんだ」
「見てみたい」
「また案内するよ」
とてもいい雰囲気になった。
突然、ジョーが立ち上がった。
「立って」
「えっ?」
「大統領府の偵察艇だ」
確かに船が見えた。
「村に戻ろう」
そうだ、この人は抵抗勢力の一人、私はレジスタンスと一緒にいたんだ。