サマラ編 7
さようなら。アスナルダス王国。
さようなら。フェデルクス王子。
ラモダの背中にのり、別れを告げた。
『重なる運命ではない』王子はそう言った。
やはり、王子は仮面の消失で、自分の命を悟ったのかもしれない。
港に到着した。
栄えている港ではないけど、いざという時のために王室が作った港なのかもしれない。
小さな舟と小屋があるだけ。
「ここでお別れです」
アノアとキララは、悲しそうに言った。
「一緒に」
「私たちは、王室に使える身ですから」
「このまま帰ったら、命が……」
でも二人は覚悟を決めているようだった。
「ここからは、ラスカがお連れいたしますので」
舟の準備をしていた仮面の男がいた。
「二人で?」
不安になった。
「ラスカは紳士的ですからご安心を」
そうは言われても。
「ご無事で」
アノアとキララは泣いていた。
そして手を振る。
私の舟は沖へと向かった。
小さな動力で進む舟、心細い。
仮面の男と二人きりなんて。
「どこへ向かうんですか?」
「一番近い港へ、そこが安全だと感じたらおりてください」
ラスカは、壺とコップを見せた。
「喉が乾いたら」
「ありがとう」
警戒心は失わず。
仮面をつけているということは、彼も恋愛を求めている。
油断できない。こんなところで襲われでもしたら。
海の上で二人きり……ムフフ……。
なに!!
諦めな、逃げる場所はない。
キャァァーー
やめてぇ
俺のものになれ
唇が……。
そして……仮面が……消えていく。
海面に映る私の顔。
……なんて、妄想~
水しぶきがあがった。
やや大きめの魚? 哺乳動物のような生物が群れで泳いでいる。
「あれは?」
「マエニイだ」
黒い、背中から潮を吹いている。
「競争だ!!」
ラスカは、エンジン全開!!
「ちょっと」
よろめいた。
その体を、ラスカに支えられた。
ハッとして、すぐに離れたけど。
海原を走る。その隣にマエニイの群れ。
爽快。
ラスカの笑顔、楽しそうだ。
まさか 運命の人?
そんなわけない?
こんな小舟では、ロマンティックでないし。
でも、男性の焼けた肌は眩しい。
マエニイの群れ、海中に沈んでいった。
ちょっとした冒険心にくすぐられる。
男性と一緒なのも、ストーリーの予感。
んん?!
今度はなに??
大きな魚!!
「ラガーだ!!」
波が大きくうねる。
「食用になるんだ。港で売れる」
「まさか、捕らえるの?」
「こいつでね」
ラスカは、縄をつないだモリを取り出した。
海面をじっと見つめる。
漁師の顔だ。
海面にラガーの大きく真っ黒な背中。
ラスカは、モリの先を向けた。
「ヤァァーー」
刺さった!!
背中にモリが刺さり暴れるラガー。
モリは抜けない。
「このまま引き上げる」
ラスカは縄を引っ張った。
「キャァァ」
舟が揺れる。
「捕まって!!」
その直後だった。
ラスカは、縄を持ったまま、海に引きずり込まれる。
茫然として言葉が出ない。
そんな……。
ラスカは海中に引きまれてしまった。
こんなことって……。
舟に一人……取り残されてしまった。
動力はそのまま、勝手に舟は進んでいた。
どこへ……。
暑い、太陽に攻撃されてるみたい。
流されている。
舟の操作の方法なんてわからないし、方角さえも……。
喉が渇いた。
壺の水がなくなってしまった。
このまま死んでしまうの?
太陽の光が目に入った。仮面の下から汗が伝わり、首筋を流れた。
どこを見回しても、海……海……陸なんて……。
絶望が頭をよぎる。
もうだめかも……。
気を失った。
目を覚ました。
生きている。
舟は海岸に流れ着いていた。
ここは? 島?
ん?
車のエンジン音のような?
バン バーン
銃声?
ギャァァーー
奇声が耳に届く。
怖い。
ジープに戦闘服の男達!!
私に近寄ってきた。
恐怖で言葉が出ない。
頭から袋をかぶせられた。
連れ去られる……そう思った。