サマラ編 3
朝からなにやら慌ただしい。
一人で朝食をとった。
今日は世話役のキララが、朝食の後片付けをしてくれている。
「今日はなにかあるの?」
キララに訊いた。
「ランバダで、水源が発見されたとかで、調査に向かうとか」
「上手く発掘できたら、国益にもなるわね」
「はい、国民は喜びます」
「フェデルクス王子も?」
「はい、マスキート王子もご一緒で」
「マスキート王子?」
「第三宮殿に住む弟君です」
王子に弟がいたんだ。
「カレン姫もご一緒だそうです」
カレン姫も……狙いはどちらの王子?
「私も同行します」
カレン姫に抜かれるわけには……。
「かしこまりました。で、では急いでご準備を」
キララは突然の予定変更に、慌てた様子で部屋を出ていった。
わがままを言ってしまったかな?
宮殿広場。
何頭ものラモダが、荷車を引いている。
護衛の兵隊も剣を腰につけ、盾を背負ったまま、ラモダの手綱を握っている。
私もラモダの背中にのせた座席に座っていた。
ラモダは、砂漠での行き来に適した動物だった。
人間に慣れていて、誘導しなくても先頭のラモダに皆ついて歩いている。
「どう? ラモダの乗り心地は?」
「ええ、とても快適で、もっと揺れるかと思いましたけど」
出発前にマスキート王子とも挨拶を交わした。
気取らない王子、すぐに打ち解けた。
王子も仮面をつけている。
金髪が日光を吸収して光っている。やはり、素顔が気になってしまう。
「マスキート王子」
カレン姫をのせたラモダが割って入る。手綱をもっているので、操縦にも慣れているよう。
二人の間に無理やり割り込むなんて……。
なんとなく、仮面の裏に隠れた女心が読めてきた。
「マスキート様、新たな水源から水が引けたら、さらに国が潤いますわね」
カレン姫の唇は、植物性のルージュで自然なツヤを見せていた。
サボテンの花が咲いている。
ヤモリのような爬虫類がはっていたり。
私の隣に、フェデルクス王子のラモダが寄ってきた。
「暑くないかい?」
日差しは強い。
地面からも照り付ける。
「これを使うといい」
王子は日傘を差し出してくれた。
「お気遣いに感謝いたします」
手を伸ばした時、
キャッ!!
日傘を落とした。
カレン姫のラモダがぶつかってきた。
「ごめんなさい。暴走してしまって」
わざとだ!!
私のラモダは、追い出されてしまった。
口調は上品なのに、下品な笑い声。
カレン姫はフェデルクス王子との会話を夢中で楽しんでいた。
負けないから……闘志が芽生える。
太陽が傾きだした。
乾いた風が頬を伝わり流れていく。
一行は止まった。
ここだけは緑に囲まれていた。
小さいけど水源に間違いはない。
皆、ラモダから降りた。
「水質を調べる必要がある」
フェデルクス王子の命令で、白衣を着た研究員が水を採集する。
「場所の地図は?」
「しっかり書きとめてあります」
ここまでのルートも宮殿高官が作成していた。
荷車から国の旗が下ろされ、主権を示す証拠を掲げようとした時だった、
ガァァァーーー
雑音? 奇声???
別の集団が、ラモダにのって現れた。
いや、襲われたと言っていい。
「なに事ですの?」
カレン姫は珍しく怯えている。
「盗賊だ。水源を狙ってきたんだろう」
味方のラモダが暴れ出し、砂埃が舞い踊る。
兵士が戦闘態勢に入った。
「姫たちを連れて逃げるんだ」
フェデルクス王子は、マスキート王子に言った。
「王子は?」
私とフェデルクス王子との瞳が重なる。
「兵士と、ここで戦う」
そう言って、兵士から盾と剣を受け取った。
「はやく、この場から」
マスキート王子は、私とカレン姫、兵士以外の同行者をラモダにのせ、先導した。
走り出すラモダ。
荒々しい声が砂漠に響く。
後ろを振り向いた。
兵士が盗賊と戦っている。
フェデルクス王子の盾に盗賊の剣があたり音を立てた。
勇敢に戦う王子の姿が、遠のいていく。
「ご無事で……」
祈るしかなかった。