サマラ編 2
私たちは、宮殿に戻った。
王子は、宮殿の塔に案内してくれた。
監視員が深く礼をしてきた。
望遠鏡が設置されている。
「ここから領地が一望できるんだ」
望遠鏡を覗いてみた。
街の様子もよく見える。
活気のある市場、野菜から果物、肉や家具まで売り場が広がっている。
さらにズームアップ。
公園が見えた。
ん?!
カップルの歩く姿。仮面をつけているので、交際の一歩手前?
仲がよさそうで、腕を組み、体が密着している。
突然、芝生のほうへ走りだした。
ちょっとためらいはあるけど、目で追ってしまった。
カップルは木陰に入り込んだ。
木の陰で見えない。
でも、なぜか、私の視線は停止している。
すると、木陰から出てきた。
あっ!!
二人に仮面はなかった。素顔の二人が仲良く公園のベンチに座った。
きっと、互いに恋愛感情が芽生え、木陰でキスを交わしたのだろう?
こうして仮面は剝がされる。この世界は、こういうシステムになっているんだ。
「どうかした?」
王子の言葉にハッとした。
王子と一緒だったことを思わず忘れてしまった。
「いえ、なにも……」
ごまかすしかない。
「あれを見て」
王子が指さした方向には砂漠が広がる。
領土の外側、煙があがっていた。
「あれは?」
望遠鏡の角度を変えると、景色も変わった。
手元のレバーでズームを調整する。
人がいる、仮面をつけている者、つけていない者。
槍と盾……って、兵士?
「戦争???」
「国内は平和だけど、一歩外に出ると危険なんだ」
もう一度、望遠鏡を覗く。
倒れている兵士。
近くに小さな泉がある。水が湧き出ているよう。
「水源の所有権を争っているんだ」
「それほど水が貴重だということなんですね」
「この国の豊富な水源も警備隊が常に監視していて、争いがおきたら軍が出動する」
望遠鏡の位置を変えてみた。
いつの間にか、勝利した兵士が泉を囲み、水で祝杯をあげていた。
「できれば、争いをしたくはないけど」
もう一度、王子と見つめ合う。
仮面をつけていても瞳は見える。王子の瞳は少し悲しそうに見えた。
この方は、平和を愛する人なんだ。
「どの国も新たな水源を探索している。この国も……」
私の気持ちを察してか、王子は明るく言った。
もう一度街の中を覗いてみた。
幼稚園? 子供たちが集まる広場で、大道芸人のような人がボールや棒を使って、パフォーマンスをしていた。
子供たちの笑顔に癒される。
「そうだ! 友達を紹介しよう」
王子が言った。
「友達?」
「同性の友達がいたほうが、なにかと相談もできて、過ごしやすくなると思う」
王子は、宮殿、水芭蕉の間に案内してくれた。
「カレン姫」
姫!!
「はじめまして」
「カレン姫は、隣国、メルドアール王国の王女」
王女様!!
「自国で植物を増やしたいと、農業研究者をつれて住んでいるんだ」
物静かな立ち振る舞い。仮面をつけているので、表情はわからないけど。
「よろしければご一緒に」
カレン姫につれられて、栽培ハウスにきた。
土のない花壇に水が流れている。
水だけで成長する植物。そんな研究をしているようだ。
研究者も若く、みな仮面をつけている。
「研究に忙しく、みな恋愛をする時間がありませんの」
カレン姫はそう言って、野菜の栽培ハウスに向かった。
研究者の一人が、カレン姫に野菜を入れたトレーをもってきた。
「新鮮ですから、そのまま食べてみてください」
カレン姫にすすめられて濃い緑色のリーフを口にした。
にがい!!
「いかがですか? 恋のお味がしませんこと?」
恋の味って……にがっ!!
「あなたも仮面をつけてここにいらっしゃるということは、恋のお相手をお探しに?」
「は、はい」
適当な返事をしてしまった。
「では、ライバルとなりそうですね。わたくしと……」
ライバルって、どういう?
まさか? 王子のこと???
「お口直しに、こちらをどうぞ」
赤い小さな蕪のような野菜?
「一口でどうぞ」
小さいので丸ごと飲み込んでみた。
からい!!
今度は、からすぎ!!
げっ!!
カレン姫の口元は笑っているように思えた。
この方は……一体???
その夜、ベッドに横になった。
天井に描かれた絵画、天使の昇天。こんな豪華な部屋に泊まれるなんて、かなりの待遇だと思う。
そして王子様との出会い。
王妃の地位を狙ってもいいのだろうか?
積極的にアプローチしても?
どんな方法で? 迷路の入口に立った気分。
ただ、仮面の向こうが不透明で、不安は隠せない。
だから、ラブゲーム? 仮面に翻弄される運命?
理想の男性と出会ったとしても、ライバルも多そう。
王子に好かれたいと思う女性も多そうで、妨害を臭わせたライバルも登場しているし……カレン姫……油断できない。