サマラ編 1
《コミック原作の作品です。小説としては未熟ですが、コミック・アニメのアイデアとしてストーリーを楽しんでいただけると幸いです》
この世界で、恋愛という海原を見つめる私がいる。私が立っているのは海辺、打ち寄せる波が、私を航海に導こうとしている。
その海のどこかに、運命の男性がいる。
私を求めている男性がいる。そして、深い男性からの愛を求めて、私は旅立つ。
愛のためなら、荒波を泳ぐことも、深海に沈むことも厭わない。
私・サマラ アデューシャは、この世界に転生した。
今、自分の顔を見ることはできない。
なぜなら、仮面をつけているから。
この仮面は、自分で外すことはできない。
愛する人と出会い、キスを交わした瞬間に仮面は消える。
もしかしたら、自分の顔は、すでに記憶と違っているのかも、いえ、これからの時間が私の顔を、私自身も変えていくのかもしれない。
果たして、約束の場所にたどり着いた時、私は、どんな顔をしているのだろう?
風が乾燥している。
異世界に踏み入れたのだと実感。
一面がサンドベージュ。砂漠の景色。
幻影が見える。
オアシス?
喉が渇いた。
水が飲みたい。
私の顔は……手で触ってみた。仮面がついている。
オアシスに駆け寄った。
それは、やはり幻影だった。
オアシスは消えた。
声がする。
『王子、人が倒れております』
これも幻影?
仮面をつけた青年。
助けて……。
日差しが眩しいと感じた。
「お目覚めですか?」
誰の声?
メイドが立っている。メイドも仮面をつけていた。
「ここは?」
ベッドで寝ていた私。ゆっくり体を起こした。
「アスナルダス王国の第二宮殿です」
「王国?」
「はい、砂漠で倒れていたところを、フェデルクス王子が」
「王子? 」
「はい、この国の次期国王です」
「頭が痛い」
「無理をなさらずに、ごゆっくりお休みくださいませ」
「大丈夫よ。ありがとう」
立ち上がったけど、まだ、足がふらつく。
「本当に無理をなさらずに」
「この国って……もっと、この国を知りたい」
水の流れる音?
立ち上がって、窓の外を見た。
砂漠の国とは思えないほど、輝く緑!!
見たことのない豪華な風景。
泉から水が豊富に流れ出していた。
「王国には地下水が流れていまして、周囲が砂漠でも水には不自由しません」
「外に出てもいい?」
「はい、ご案内いたします」
メイドは、アノアと名のり、私を外へ案内してくれた。
ここは王子の住む第二宮殿、部屋の外に出て庭を見た。
丁寧に手入れのされた草木が咲き誇る。これも、水が豊富にあるからなのだろう。
庭師は素顔だった。
恋愛を求めない者は、仮面をつけてはいない。
途中出会った使用人も、仮面をつけている者、素顔を見せている者、様々だった。
「お食事のご用意ができました」
王子専用のダイニングルームに案内された。
「お礼を言わなくては」
フェデルクス王子、砂漠で命を助けてくれた人。
仮面をつけているけど、首筋は白く、口元も綺麗。
「体調はどうかな?」
柔らかな声。
若くて……間違いなく恋愛対象!
「元気になってきました。ありがとうございます」
「あなたさえよければ、これも縁、しばらくここに居たらいい」
なんて、ありがたい言葉。
行き場のない私にとって、運気の流れが良いほうに向かっている。
「後で、街を案内しよう」
「王子がですか?」
「僕では不満?」
「いえ、王子が街にでたら、色々と……」
「心配はないよ。仮面をつけているから、服さえ変えればわからない」
「確かに」
「王国を出ると、水源をめぐる争いが絶えないけど、街は安全だから」
こうして、私はフェデルクス王子と街を散策した。
庶民に溶け込んでいる。
誰も、王国の王子がここにいるなんて思わない。
街では、仮面をつけている男女が多いし。
ただ、結婚している者は素顔。
子供も仮面をつけてはいない。
仮面のカラー、形など、デザインは人によって違い、特徴がある。それで、じっくり観察すれば、人を判別することができる。
重さを感じない仮面、自分の顔の一部にしか思えない。
この仮面はどこから現れて、どこに消えていくのだろう?
自分の仮面を手で触ってみた。
恋愛対象との出会いで、運命を変える仮面の魔法。その魔法に、私は包み込まれている。
「ほしい物はあるかい?」
王子が訊いてきた。
ほしいも物と言われても……。
「わからないことが多すぎて」
「僕も、君のこと、なにも知らなかったね」
「ごめんなさい。頭が混乱していて」
「デザートとお茶でもどうかな?」
普通のデートになっている。
「いらっしゃいませ」
ティールームに入店した。
温かなティーとパイ生地のデザート。
「王子も、こういうのお好きなんですね」
「似合わない?」
「いえ、わかりません。お顔が見えませんから」
「確かにこの世界では、仮面の向こうを想像して相手と接する」
「難しいですよね。なにを思っているのか、理解するの」
「人の内面を探りながら、外側を想像する」
「なんか、ゲームみたい」
「ラストは、自分で決断する。勝負にでるかどうかを決めるのは自分自身の判断」
「ファイナルアンサーで結果がわかるなんて」
「勝利者なるか、どうかは」
「仮面が消えた時」
「それは相手も同じ。相手の同意がなければ恋愛は成立しないからね」
「不思議な世界ですね」
近くで語り合う男女の声が耳に届いている。愛の囁き、お似合いのカップル。
仮面をつけた二人。このカップルはいずれ、キスを交わし、仮面の向こうを見ることになるのだろう。
「どこから来たの?」
王子が訊いてきた。
「私もわかりません。砂漠で突然倒れてしまって」
「記憶を失ったのかな」
「でも、気を失って夢を見たんです」
「夢?」
「ええ、異国の地で仮面をつけた自分がいました。その仮面は恋愛を求める男女に強制的につけられ、互いの愛を確認した時点で、相手の素顔を見ることができると……」
「神のお告げのようだ」
「現実に仮面をつけた自分がいることに戸惑いと、運命的ななにかを感じています」
「僕も君も、仮面をつけているということは、愛すべき人を求めているわけだから」
「はい」
「楽しみだね。二人の未来がどこに向かっているのか」
ステキな人。王子の顔を想像してしまった。
これがこの世界のラブゲーム? その始まりなのかもしれない。