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第22話 母の想い

 ゼノビア城第4医務室。


 訓練場から最も近くにある治療施設に、ルイは気絶したオズたちを運んでくれた。


 彼はどこからか話を聞きつけ訓練場まで様子を見に来てくれていたので、ちょうどいいところに来たと思い、運搬の任を与えた。文句を言っていたが、騎士なんだから。そのくらいしなさいよと言って軽く蹴っ飛ばした。


 ほどなくして、目を覚ますオズとジュリエッタ。ほとんどケガとかしてないはずだから、問題なく話せるはずだ。


「約束は守ってもらうわよ!」



 寝起きざまに、私はオズに問うた。シルメリアについて重大な秘密を教えてくれるって話だったよね?ケガさせなかったのは早くこれを聞きたかったから!さあ、すべてを打ち明けなさい!


「知らん」


 はああああぁぁぁぁぁ!!??ふ、ふざけんなよ、このガキ!


「あと、俺はギブアップとは言っていない。この勝負は引き分けだ」



 無駄な戦いだった。骨折り損のくたびれもうけ。つくづくむかつく親子だ。





「まあいいじゃないの。勝ったんだし。おかあさんは、スッキリしたよ!」


 時間まで無駄にしたくなかったので、早々に施設を後にする道すがら、母がわたしの雰囲気を察して、声をかけてくれた。


「よくないよ!アイツいっつも絡んでくるし、嘘つきだし!」


 私は怒りのまま、母に言った。なぜだかよくわからないが、母の前だと本当に幼き頃に戻ったような感覚で話すことが多くなる。これが、本来のティアとしての自我なのかもしれない。


「あはは。あ、それよりティア。この並木道、あるでしょ」


 第4医務室からの帰り道。舗装された石畳の脇を囲むように植樹がされている。


「実はあなたがお腹に宿ったことがわかったときね、王様に1つだけお願いして聞いてもらったことがあるの。この娘はきっとおてんばになるから、よく通うことになる医務室までの道のりが少しでも快適になるように、植樹をしてくださいってね」


 ふふっと微笑む母。昔を思い出しているようだった。


 ただ、私は自身が緊急で医務室に通ったことは一度もなかった。医務室送りにしたことは何度もあったので、そういう意味では植樹の提案は機能していたとも言えるのかもしれない。


「わたしの唯一のお願い。王様は叶えてくださったわ」


 遠い目をしながらちょっと悲しそうな表情になる母、サビーナ。


 母は、他の異母たちの中では最も身分が低く、それで色々と嫌な思いもしてきた。私がこれまで物理的な障害からは守ってきたつもりだけど、心はそういうものでもないのだろう。


 普通の夫婦であれば、互いの願いを叶え合う存在として、お互いを必要とし求め合うのだろうけど、王にとっては沢山いる妻の中の1人。爵位の低い女性ということを考えれば、必然的に接点は少なくなる。ほとんど会うこともないのだろう。


「いつか親子3人で、この並木道を一緒に散歩することが、私のささやかな夢なの」


 ふふっと微笑む母の横顔はうれしそうでもあり、切なそうでもあった。


 母にはすごく感謝している。こんな私でもいつも味方でいてくれて、絶対に私を頭ごなしに怒ったり叱ったりすることはなかった。ちゃんと話を聞き、理解してくれるとても大切な存在だ。絶対に悲しませたりしたくない。


「大丈夫よ、お母様。その願いは私が必ず叶えてあげるから」


 大した願いでもない。いくら忙しい父とは言え、そのくらいの時間はあるはずだ。引きずってでも、いつか必ずここに連れてきてやるんだから!


「ありがとう、ティア。愛してるわ」


 ニッコリと微笑む母の笑顔。私への心からの慈愛。


 何故かはわからない。わからないけど、母の私を見つめるその瞳を見ていると、急に自身の心が締め付けられる感覚に襲われ泣きそうになる私。


 ……へへ。でも、悪い気はしないよね。


 こちらこそ。いつもありがとうお母さん。


 愛してるよ。





 プランタに入学してから今日まで過ごした激動の日々はあっという間だった。


 図らずも、学園内に跋扈ばっこする主要な力を持つ人間たちはおおむね黙らせた。


 これで卒業までは大人しく過ごせるだろう。多少のイレギュラーはあるかもしれないけど、想定を超える出来事は起こらないと思う。誰にも邪魔されず、集中して古代図書館地下1階の書物を読み漁り、知識欲に溺れる日々を続けられる。



 ――その願いは叶い、私はひたすら学園と図書館を往復するだけの日々を続けた。


 オズはこの間の戦闘で黙らせたので、それ以降あまり絡んでこなくなった。時折親族に根も葉もない噂を流し、私の立場を悪くしようと画策していたようだけど、その程度なら無視して構わないと思ったのでほっといた。もうめんどくさいので。


 ティベリウスの監視は相変わらずだったけど、もはや慣れすぎてまったく気にならないレベルになっていた。彼は彼で、本ばかり読む妹をずっと見ていて楽しいのだろうか?と常に思っていた。


 あと、ユウナやアリア達とはたまに遊んでいた。せっかくの学園生活。その辺りも多少は楽しまないともったいなかったしね。アリアは相変わらずむかつくことが多いけど、ユウナはとってもいい子で癒されるし。



 そんなこんなで、時は思いのほか早く過ぎていき、そして……




 ――――気付けば、5年の歳月が流れていた。


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