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消えないな
「あそこだ!」
すかさずルイが指さした天井ちかくに、黒い大きな《蛾》のようなものが飛んでいた。
「まて。撃つな」
銃をかまえるサリーナの腕にウィルが手をかける。
「でも、逃げるぞ」
黒い《蛾》は、軌道がよめない動きでとびまわり、どうにか留置所をぬけ、今は鉄格子をぬけようとしているところだった。
「あんまり、小さいところを通るのが得意じゃないみたいだな」
ルイがのんびりと口にしたとき、すいっと格子の間を《蛾》がぬけてゆき、見守る警備官に腕をおさえられたサリーナが、「つかまえろ!」と仲間の警察官にさけぶが、三人はとまどったように身をすくめていた。
「なんで捕まえないんだ!」
「まあまあ、ちょっと落ち着きなよ」
サリーナから銃をとりあげたウィルは、《蛾》が入口の鉄格子をぬけるのも見送ってから、ルイをみやり、「消えないな」と確認するように声をかけた。
ギュユおうッ
とつぜん、獣と人のあいだのような叫びがひびきわたり、重ねてそれにおどろいた数人の悲鳴も響く。