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身分証は無い
ここに来るまでにウィルが口にしたように、もしこの男が、《バーノルド事件》で存在があきらかになった《悪鬼》の残りなのだとしたら、《こっち》でも生活していけるような身分も名前も持っているはずだ。
「―― ほんとに、身分証のたぐいを持ってないのか?」
ルイの質問に髪をかきあげながらわらった男は、家にならある、とこたえた。
「とりに帰りたいっていったのに、そこの女が許可してくれなかったんだ」
「名前は?」
「デイヴ・ターナー」
「職業はバイクレンタル屋とか言わないよな?」
「知ってるなら早く解放してくれよ」
からかうような目をルイにむけた。
それにこたえるように、にっこりとした男が冷たい声をだした。
「なんで両目があるんだ?」
「なんだって?」
「だいいち、おまえは、デイヴ・ターナーとはまったくちがう。 彼はオリーヴ色の肌の黒髪で、小柄。こういう顔をしてるんだよ」
ウィルがわたしてきた端末の画面をみせてやる。
クラークの会議でもらった写真だ。
「 本物のターナーはどこにいるんだ? おまえ、知ってるんだろう?」