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珍しいお客
眼鏡を鼻の上からとったノアが、机で仕事をしていた三人の若い『仲間』へ眉をあげてみせ、命じた。
「ブラインドをおろせ。 ―― 手元の仕事は中断できるか?そんで、珍しいお客さんに新しくコーヒーを落とそう」
会議用の広い部屋は部署共有用のものがあるが、ここでいいだろうとノアが決定し、机にいた男女が、奥にあった折りたたみ式のテーブルをだして広げた。
警備官にコーヒーをくばるのは、落ち着いた雰囲気の眼鏡をかけた男で、噂の警備官たちに会えてうれしいよ、と軽い口調でウィルに声をかけてきた。
「うちには一言もないけど、重犯部はコート州からの『失踪から殺人になりそうな事件』を
ひきつぐらしい。 これがその資料で、なんとクラークが担当だってさ」
サリーナがおもいのほか丁寧に広げた紙束と写真に、若い三人の警察官たちが身をのりだす。
ひとりだけ手をださないノアをサリーナがにらみ、「知ってたなら教えてくれりゃいいのに」と口をまげる。
手にしたカップのなかに砂糖を落とすノアは、知ってたわけじゃなくてちょいと聞いただけだ、とスプーンをまわした。