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人の質
「そりゃ、あんたが決めるんだろ? みんながうらやましがってるぜ。老後を考えたらおれたちも、もっと警備官と、うまくつきあっておきゃよかったって」
入口ドアによりかかってこちらをゆびさしているのは、同じ部署の風俗犯罪防止課の男だ。
同じ階に部屋があるのだが、むこうのほうが豪邸くらいの広さがある。
事件の派手さも新聞にのる多さもむこうが勝っているのだからしかたがない、とはノアの上司である男の言葉だが、それに異論はない。
この国の《風俗課》は、主にカジノやギャングの取り締まりをしていて、見た目は警察官からひどく離れた印象の者が多いのだが、いままでのところ、それほどひどい収賄事件も起こらず、警察官の質もそれほどひどくはない。
この男も刑事としてはまともな仕事をするのに、警備官がからむと人としての質がおちる。
「どきなよ。 あんた いっつもヒマそうだね」
低い女の声に顔をあげると、入口でサリーナが男をにらみあげている。