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車ドロボウ
「まだ『して』なかったけど、 あたしがあとをつけたら逃げ始めて、最後はこっちの州で木につっこんで自滅した」
「『こっちの州』?『あとをつけて』?」
ウィルがいやそうに前髪をはらう。
「きのう、コート州の給油スタンドででくわしたへんな男たちが、ちょい気になってあとをつけたんだよ。 おかげで、デートは中断になったけど、その車が盗難車だって判明した」
「そいつもついてなかったな。車ドロボウくらいでサリーナに追っかけられるなんて、生きた心地しなかっただろ」
机の写真を片付けたニコルが、ようやく目当てのチーズマフィンを手にして椅子に腰かける。
チョコマフィンをかじりながらサリーナが首をふった。
「『ドロボウ』じゃないかも。 車のナンバーを照会したら、すぐコート州内の盗難車だってわかったんだけど、そのあとすぐにコート州の《殺人課》から連絡がきてさ。 もしかして、その男が殺人事件にかかわってるかもしれないから、拘束しておいてくれって」