鍋に落とした
眼鏡をかけ、おこったような顔でページをめくる様子から想像したものとは、まったくちがう穏やかな声音で対応した老人は、しばらくして本を閉じると、むかいに座った男たちの身分証をめずらしげにながめまわし、『警備官』っていう職業は楽しいかね?と、こどものような目をむけてきた。
「どんな仕事も、楽しかったり、楽しくなかったり、だね」
コーヒーを飲むウィルのこの返答に大笑いした老人に、マークがジュディの写真をみせて知り合いだと返事をもらったあと、彼女から《メッセージ》をもらっていないか、と確認をはじめた。
「《メッセージ》? ああ、そうか ・・・いやあ、わからんな」
首をふりながらわらいをもらすと、むかいにすわる若い男たちに、いいにくそうに、きりだした。
「 ―― 端末器を、取ろうとして鍋におとしてしまってね。 普段ジュディとは電話で話すんだが、《メッセージ》が送られてるのかな? ―― それで?きみらみたいな仕事の人たちがくるなんて、・・・いったい、彼女の身になにがおこったのかね?」
眼鏡をはずし本の上で両手をにぎりあわせた老人は『嫌なしらせ』をまちかまえた。