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あの子が?
「あの子が新人かい?」
こちらをみたまま、ニコルにきいている。
『あの子』?
わらいをこらえながら、大柄な男がうなずき、こちらを振り返る。
「たしかに、《アイツ》が、うちの班の期待の新人だし、《アイツ》はもう、期待に応えた働きをしてくれてる」
ニコルがザックの不満顔を和らげようと、『アイツ』を強調してポールに伝えるが、相手は、そりゃすごい、と微笑んだだけだった。
コート州の中、東側のドラン州との境界ちかくには、小さな湿地帯がある。
小さいといっても、クロイス州でいう五区画ほどはあるだろう。
ウィルがいうには、ちょっとした牧場くらいの広さらしい。
『湿地』というところに初めて来たザックにしてみれば、なんだか荒れた草地という印象だった。
首をみぐらせた限り、視界には、この湿地に生えるという背の高い細長い草と、ところどころに、枯れたまま生えているような、細い木しかない。