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№08 ― 雰囲気はジャンと同じ ―
足元の水は、油か汚れかわからないが、黒い色をしている。
作業用の長靴はすねの中ほどまでつかり、考えていたよりもつめたい水は、足先の感覚をにぶらせはじめている。
「ここで、みつかったって?」
むこうでニコルがそばに立つ男に確認している。
「 ああ。 でもみつけたのはおれじゃなくて、逃げ出した犬をさがしてた男さ」
こたえる男は、長靴がそのまま胸までのびたようなゴム製の作業着を着ている。
片手に持った長い棒を立てて近くの水にさしこんだ。
邪魔な髪をうしろでゆわいている。
髪の色も顔のつくりもちがうが、女にもてそうなあの雰囲気はジャンの兄貴だな、とザックも近くの水の中に棒を突っ込んだ。
「きみ、そっちはもう終わってるんだ」
「え?」
顔をあげると、ポールがこっちをみている。
「そのへんには、深い穴が多いから、足場に気をつけて」
「ああ、うん。わかった」
命令ではない気遣いの言葉に、なんだか調子が狂う。
いままで自分のまわりにいなかったタイプの警察官の男だ。