悔しくてなぐる
もしかして、―― 。
いきなり立ち止まった弟を、けげんな顔で兄は振り返る。
いつものように、《ヘイ、どうした?》なんて言葉をあらわした表情がみつめてくる。
「・・・あのさ、きょう、ジムに初めて聞いたんだけど、おれのこと、いじめないよう、まわりのヤツに、・・・ポールがおどしかけてた?」
「おいおい、警察官になるんだぜ?そんな人聞きの悪いこと言うなよ」
上着のポケットに手をいれたまま肩をすくめる。
「 ・・・おれが学校で一度もいじめにあわなかったのも、年上のやつらから目をつけられなかったのも、ポールが、おどしてまわってたから?」
ポールの弟だとみんなが知っているのだから、いつだってそれにふさわしく堂々としていようと思っていた。
そんな自分の態度が、ほかのやつらみたいに、『ちっちゃないざこざ』をよせつけないのかと思っていたのに。
「 あのなあ、―― そりゃすこしは、」
ため息をつくようなその先の言葉は、もうききたくなかった。
「よけいなことすんなよ!おれだって自分のことぐらい自分でできるよ!」
「・・・ああ、そうだな」
怒鳴った弟をみつめる兄は、きっと世の父親がこんなときに浮かべるだろう笑みを浮かべていた。
「 ―― 悪かったよ。ガキ扱いして。 ただ、おまえのことがちょっと心配だったからっ、 」
ジャンは、兄貴にむかってこぶしをあてた。
――――
※※※




