兄の気遣い
目の合った弟に、いつものようにほほえみかけた兄は、心配するな、とまた頭をたたく。
「早くプレハブへ移るようにかあさんに話すから。 あと、おまえが卒業するまでの、これからの保証人はおれがなるし、そのあとの専門学校の金も気にするな」
「おれ、専門学校いかなくても平気だよ」
「だめだ。学校はいけるうちに行っとくもんだ。その数年が、この先で役に立つんだよ」
「でも、」
「ジャン、おまえはまだ小さいんだから、よけいなこと気にするな」
おまえはまだ小さいんだから
いままでだって、なんども言われてきた言葉だ。
たしかに、ポールにくらべたら、十歳も幼い。
気づいたら、出て行ったという父親の代わりに、頼りになる兄がいた。
『おまえはちっちゃいんだから、とどかないよ』
『おまえは、まだできないだろ』
なんて言葉は、物理的大きさの確認であったし、事実の認識でもあった。
が。
「・・・おれ、もう、十歳だよ」
「ん?ああ、知ってる。誕生日プレゼント、気に入らなかったか?」
最新のギアつき自転車をおくってもらったのだ。
このへんで、そんなかっこいい自転車をもっているのは自分ぐらいだと、おくってもらってから毎日自慢げにのりまわしているが、ポールとの約束で、街の中でしか乗らないようにしている。