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『おいかけっこ』
「 『 おまえにむかって よーいどん
にげろやにげろ つかまるな
せなかにさわって ふりむいて
鬼をみたなら つかまって
つぎにはおまえが よーいどん
にげろやにげろ ふりむくな 』 」
紙をみることもなく、すらすらと口にするウィルをみんながおもしろそうにながめる。
「―― 『おいかけっこ』っていう《童謡》だよ、むかしっからある。 ま、いまじゃあ、こういうふうに、図書館で資料をさがさないとわからないような、古いうただけど」
ウィルが怒った声で、手にした紙をとなりのジャンにおしつけた。
眉をよせた副班長のよこからのぞきこんだ新人も、こんなの知らないと肩をすくめる。
「おれは、子どものころ年寄にきいたな。 大人が入っちゃだめだっていう場所にはいったり、一人でさびしい場所にいくと、その『背中鬼』がやってきて、捕まるっておどかされた」
ルイのその言葉にわらったのは警邏の班員だけだったが、班長のマークは笑っていない。