こんなんで
重犯罪部を指揮するイアン・クラークは三十代のときにいまの地位についた出世株だが、コネはなく実力でのぼったことは皆が知っている。
誰に対しても態度はそっけなく、口は悪いのだが、部下にも慕われており、警備官といちばん多く仕事をしてる警察官マイク・ベネットも信頼をおく上司だ。
ケンの指摘に頬をゆがめるようにわらった男は、何が悪い?と自分をみつめる全員の顔を見返した。
もう四十代の後半にきたがまだ筋肉のほうが多いからだつきをして、髪は軍人のようにみじかく刈り込んでいる。
本人はいつもいやいや現場にでているようなことを言うが、この男もノアと同じように管理職になりきれない警察官だ。
「 ここの食堂に堂々とたどりつける『警察官』なんて何人いる? おれは好機はのがさないよう生きてるんだ。 なあ、そこの、新人。 噂じゃかなりイキがいいってことだったが、ずいぶんと静かだな」と、ザックをゆびさした。
「・・・なんだ、くちごたえもなしか? ジャンもなんだかそわそわしてやがるし、おまけにウィルまでボーっとしてて、それを心配してるニコルがおれにいいわけみたいに何度もうなずいてきやがる。ルイはいつもの通りわかってんのかどうか判断つかねえ顔だし、班長は研修で留守だと? こんなんで《要請》の仕事できんのか?おまえんとこは」
的確にいまの班員の状態をならべたてたクラークは、ふだん通り、にやけた顔のケンをみた。