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ケンカではない
自分でも『いつもの』調子がとりもどせないと感じた男が、自分の髪をかきまわして顔をしかめる。
「むかしからの習慣みたいなもんだよ。 いまさら、兄貴あいてにおだやかに話そうとも思えないし」
「口調ですぐにわかるぞ。家族からの電話のときだけ、ものすごくそっけなくて口調がきつい」
責めるわけでもなく、ニコルが太い指をむけてくる。
「兄弟げんかの延長か」
ケンのことばに気まずくなって下をむく。
たしかに、はたからみればそういうことになるのだろう。
「・・・べつに、『ケンカ』してるわけじゃないよ。ただ、―― おれが、兄貴と仲良くなれないってだけで」
改めて口にすると、自分がひどく子どもっぽいことに気づいた。
ニコルのおだやかな目と合って、どうにも恥ずかしくなった男は、「休憩してくる」と班室をあとにした。