№03 ― とりたくない電話 ―
その着信を確認したとき、ジャンは眉をしかめた。
いま、警備官A班の班室には、副班長である自分と、班員二人しかいない。
だがここで、表示されている着信相手の電話をとるのは、ためらわれた。
「どうした?はやくとれって催促されてるぞ」
大きなからだを縮めるように座って、机の書類を整理しているニコルが、副班長の机の上で催促の音をだしつづける器械を、目でさす。
「きかれたくねえんだろ?振った女からのしつこい電話とか」
ニコルを監視するように横にたっているケンが、いつものどこかばかにしたようなわらいを浮かべて、ジャンをみる。
「ああ・・・それならいったん、おれたち休憩に 」
いいかけたニコルに片手をあげてみせた男が、鳴り続ける携帯を手に取り、ようやく耳にあてた。
「 ・・・ああ、なに?何かあった? ・・はあ?いや、 あのさ、おれだって予定が・・・わかったよ。何時に? わかった ・・・くそっ」
機嫌もわるく携帯電話を机に放ったジャンを、ケンがうれしそうにゆびさす。
ニコルが大きな手でまとめた書類の束をケン渡し、ファイルにしまうよういいつけてから、わらいをこらえるように声をかけた。
「なあ、ジャン、 ―― いつも思うんだが、もう少し、 いつものおまえらしく、おだやかに話せないのか? 兄さんと」
「むりだね」
珍しい愛想のない即答に、「うわ。どっかのチーフみたいな口調」と、ファイルケースを片手にケンがからかう。