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姿はないのに迫ってくる
「・・・おまえが穴に落ちて、 ・・・悲鳴をきいたとしても、助けに行かない気だった。・・・自分が《湿地》の穴に落ちないよう気をつかうので、せいいっぱいで、どれだけ離れたかもわからないところで、・・・ようやく息をととのえて、―― 耳をすませた」
赤ん坊の泣き声も悲鳴も聞こえなかった。
―― のに。
「・・・だれかが、―― おれのことを追ってきてた。 むこうの方の枯れ草が、ざざって、おおきくゆれてたおれて、・・・それがどんどん、近づいた」
見えたわけでもないのに、《そいつ》の息遣いがきこえてきた。
「『ああ、こいつが《背中鬼》だ』って気づいた。 ―― だって、あの本にかいてある通りだった。姿はみえないのに、わかるんだ。・・・水っぽい息をはく音と、どんどん《せまって》くる気配・・・。 あんときはおれも、ふつうの子どもだったんだな。・・・こわくって、しかたなかった・・・」
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あと数回でようやくおわりです!




